artscapeレビュー

2009年07月15日号のレビュー/プレビュー

下嶋知子「sacrifices」

会期:2009/06/16~2009/06/21

アートスペース虹[京都府]

はっきりとは思い出せないけれど、頭に浮かんでくる風景。そんな風景だろうか。霞がかかったようにボンヤリとしているけれど、濃淡のゆるやかなグラデーションが光の表情をみごとに表現していて美しい。日射しがいっぱい射し込むギャラリー空間によく似合っていた。

2009/06/21(日)(酒井千穂)

瓜生昭太「認識の深度」

会期:2009/06/16~2009/06/27

ギャラリー16[京都府]

電車の車両のなかの光景をモチーフにした立体と平面作品の展示。電車の扉付近に立ち、携帯電話を操作しているサラリーマン風の男性や女性、座席に座って本を読む人の彫塑像があり、後ろの壁面には直接、彫塑になった人物以外の車両内の光景が描かれている。立体から感じる平面性と平面の奥行きを組み合わせて、他者との関係性で成り立つ「認識」という曖昧な問題にアプローチしているのだが、壁面のドローイングも彫塑も両方が上手いので説得力もある。それ以上に興味深かったのは、実際に電車に乗って車両内を撮影し、その写真をもとに制作しているという事実。作品を見ればなんとなく察することができるが、撮影許可は誰にもとっていないという。撮影するときに緊張しないだろうか?怪しまれないのだろうか?いつかトラブルにならないだろうか?なにか事件を期待してしまうような要素が多くて面白い。

2009/06/21(日)(酒井千穂)

奇想の王国──だまし絵展

会期:2009/06/13~2009/08/16

Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]

このテの展覧会、昔、伊勢丹あたりのデパート系美術館で10年に一度くらいやってたなあ。いまじゃデパート系はBunkamuraしかないもんなあ。同展はアルチンボルドからヘイスブレヒツ、ホーホストラーテン、歌川国芳、河鍋暁斎、マグリット、エッシャー、福田美蘭、本城直季まで古今東西のだまし絵を集めたもの。絵画の邪道ともいえるが、抽象も含めてあらゆる絵画はだまし絵ともいえるし、退屈な王道よりよっぽどおもしろい場合だってある。アルチンボルドの《ウェルトゥムヌス(ルドルフ2世)》と、リサ・ミルロイの《皿》が飛び抜けてすばらしかった。

2009/06/23(火)(村田真)

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カンポ・バエザの建築

会期:2009/06/25~2009/08/29

ギャラリー・間[東京都]

アルベルト・カンポ・バエザはこれまで日本であまり知られて来なかったスペインの建築家である。本展覧会に実際に訪れるまで、そうはいっても自分はマドリッドの重鎮であるこの建築家に関して、かなり以前から認識してきたし、多少は知っているのではと思っていた。作品の数というよりも、そのミニマルな思想であるとか、光のとても美しい使い方であるとか、そういったことである。しかし、である。ギャラリー・間の会場に訪れて、やはり自分はまったくこの建築家のことを知らなかったのだと強く実感した。
一つには、その作品の数において。寡黙な建築家であることは確かなようで、オープニングでもまったくミニマルで、それでいて完璧なスピーチを披露した。だからこそ、これほど多産な建築家であったことにまず驚いた。第二展示室の奥に並べられた模型と作品パネルは、バエザの光に関する継続的なさまざまな試行を示している。その数が想像以上に多く、どのプロジェクトも見応えがある。これだけの作品を、展示上これだけコンパクトにミニマルにまとめていることがまた気になった。会場構成はマニュエル・ブランコ氏によるもの。ブランコ氏は、あえて多産な作品を強調しないという方針をとったのであろう。
もう一つには、その作品の特徴において。バエザの建築がミニマルという印象は、展覧会を見て大きく変わった。確かにミニマルであるといえる。必要ないものがおかれていたりデザインされていたりすることはない。しかし目的がミニマルであるわけではないのだ。ミニマルなデザインが生み出す効果は、まったくミニマルではない。見ていない作品がほとんどなので、模型や写真、図面を見ながらの想像でしか言えないが、バエザが目指している建築が目指す効果はミニマルの対極にある多様性だと思った。ミースの「レス・イズ・モア」を「モア・ウィズ・レス」と言い直して宣言する。レスを携えたモア。それこそが本当の多産性であると感じた。
展覧会についてもう少しだけ触れておきたい。第一展示室につるされた数多くのスケッチは、彼の生の手がダイレクトに示す思考を伝えている。これほど多くのことを語るスケッチも珍しい。一枚一枚のスケッチに、手と思考の痕跡が焼き付けられている。もう一点、この展覧会を裏から支えた人たちの一人である三好隆之氏に触れておかなければいけない。スペインに長く滞在した氏は、スペインと日本のまったく簡単ではないはずのコミュニケーションをつなぎ、展覧会全体をコーディネートしたという。そして今回の展覧会にあわせて出版された『アルベルト・カンポ・バエザ 光の建築』を訳したのも三好氏である。今回の展覧会はバエザをよく知る三好氏の尽力なしにはありえなかったであろう。本展覧会は、スペインの知られざる建築家を単に紹介するというだけでなく、多様性を喚起する「新たなミニマル」について深く考えさせる、重要な意味を持っている展覧会であるように感じられた。

2009/06/24(水)(松田達)

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福島菜菜「庄太郎⇔鼻行類 と浮遊生物」

会期:2009/06/23~2009/07/05

neutron[京都府]

福島は、一貫して、読み込んだ夏目漱石の短編集「夢十夜」の1話ずつを個展のテーマにしている。ただ、「夢十夜」のストーリーそのままというのではなく、彼女の場合は、その中から言葉をピックアップして想像を拡げたり、物語からインスパイアされたイメージを展開したり、作品はもはや漱石の物語からは遠く離れたオリジナルの表現となって生まれ変わっている。今展では、不思議な生きもの「鼻行類」をモチーフにしたドローイングの展示が中心。前回見たときにも感じたが、ひとつの言葉を自分なりに解釈しようとする作家の相当熱心な姿勢がうかがえる。今展の作品自体は可愛らしいものが多い印象だったが、やはりその迫力はすごかった。

2009/06/24(水)(酒井千穂)

2009年07月15日号の
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