artscapeレビュー

2009年09月15日号のレビュー/プレビュー

篠山紀信「KISHIN:Bijin(キシン:ビジン)」

会期:2009/08/07~2009/08/16

表参道ヒルズ本館B3F スペース オー[東京都]

篠山紀信が「今最も輝いている6人の女性を撮りおろす」という写真展。モデルは黒木メイサ(女優)、西尾由佳理(アナウンサー)、中村七之助(歌舞伎俳優)、安蘭けい(元宝塚星組トップスター)、川上未映子(芥川賞作家)、原沙央莉(モデル)である。
こういう企画ものでは,ど真ん中の豪速球でストライクをとるのが篠山の真骨頂なので,期待して見にいったのだが、残念ながら感動は薄かった。屋外で撮影した川上未映子とのセッションなど、いかにも彼らしい気力の充実したセッションもあるのだが、全体に観客を巻き込んでいく迫力を欠いている。特にがっかりしたのが、「眼力」の強い人気絶頂の美人女優、黒木メイサの写真で、抜群の素材のよさを活かせず、スタジオ撮りでお茶を濁しただけにしか見えない。あまり時間がとれなかったのだろうが、残念。やはり篠山紀信は、写真の世界に君臨して輝きを放つ「太陽王」でいてほしいと思う。次回はもっとパワーアップした「新・美人展」を見てみたい。

2009/08/15(土)(飯沢耕太郎)

野村恵子「RED WATER」

会期:2009/08/18~2009/09/08

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

野村恵子の新作写真集『RED WATER』(LIBRARYMAN/artbeat publishers)の出版にあわせた写真展。これまでの『DEEP SOUTH』(リトルモア、1999)、『Bloody Moon』(冬青社、2006)と比較して表現力が格段に上がり、「ほお」と嘆声を漏らしたくなるような写真が多い。
『DEEP SOUTH』の頃の野村は、同年代の女性たちと彼女たちを包み込む世界に視線を向けていた。そこにいるのは明らかに自分の分身だったはずだ。その生々しく、密接な被写体との関係のあり方が、今回の『RED WATER』ではいい意味で遠く、柔らかく、大きなものになってきている。40歳近くになった野村は、少し年上の姉の位置から、妹たちをそっと見守っているといえるだろう。そこには明らかに、個々の写真を貫く「物語」=エネルギーの流れが垣間見える。映画監督の河瀬直美が展示を見て、「映画のスチール写真のようだ」という感想を伝えてくれたという。一枚一枚の写真が、それぞれふくらみのある背景の所在を感じさせ、たしかに河瀬が監督すればいい映画ができそうだ。美しい少女たちと、細やかな陰影に彩られた沖縄、福井、東京の眺め──それらをぼーっと見ているだけで幻の「物語」=映画が立ち上がってきそうでもある。

2009/08/21(金)(飯沢耕太郎)

松本陽子/野口里佳「光」

会期:2009/08/19~2009/10/19

国立新美術館[東京都]

いちおう「光」という統一テーマは設定されているけれど、ひとつの展覧会ではなく、ふたつの個展と見るべきだろう。野口部屋から入ると、まず富士山の写真《フジヤマ》。富士山を撮ったというより、富士山に登って撮った富士山のいわばセルフポートレートだ。そのあと海中写真、ピンホールカメラで撮った太陽、発光しているようにまぶしい雪景色……と続くが、それぞれのおもしろみは伝わってくるものの、全体としてなにをやりたいのかよくわからない。どうもすっきりしないまま、もやもやした気分を抱えながら松本部屋に入ると、こちらはまさにもやもやした絵ばかり。で、ひとつ気づいたのは、松本のいわゆるピンクの絵は床に水平に置いて描かれたものだから、重力感が希薄で、天地の違いもほとんどないことだ。そこで急に野口の写真が気になって戻ってみると、なるほど富士山の斜めの地平線に始まり、重力のほとんど感じられない海中写真や雪景色(水平に展示されている)、地平線が気になる《砂漠で》、タイトルそのものが示唆的な《飛ぶ夢を見た》と、いずれも重力に抵抗する、または重力を意識した写真といっていい。そこでもういちど松本部屋に戻ってみると、近作の緑のシリーズには明らかに天地があり、水平線らしきものが認められるものさえある。画材は、30年続いたピンクのシリーズがアクリルだったのに、緑のそれは油彩になっている。カタログに本人が書いてるところによると、数年前から床置きでの制作がきつくなったため、キャンヴァスを壁に立て、アクリルを油彩に変えたのだそうだ。松本も重力と格闘していたのだ。

2009/08/21(金)(村田真)

伊島薫「一つ太陽─One Sun」

会期:2009/08/22~2009/09/23

BLD GALLERY[東京都]

伊島薫は女優たちが死者を演じる「最後に見た風景」のシリーズを撮り続けるうちに、死の恐怖から逃れるための「宗教」がほしくなったのだという。自分にとって「宗教」とは何かを自問自答しているうちに「一つ太陽─One Sun」に行き着いた。この世にただ一つしかない、あまねく世界を照らし出す太陽──たしかに「自然に手をあわせたくなる対象」として、これほどふさわしいものはないだろう。さらにいえば、光の源泉である太陽は、写真家にとっては神そのものであるという解釈も成り立ちそうだ。
この「一つ太陽」シリーズのコンセプトはきわめて単純だ。「魚眼レンズを使って日の出から日没までの太陽の軌跡を長時間露光で一枚の写真に収める」ことで、円形の画面に太陽が大きな弧を描き出す。北極圏のような場所では、白夜になるため太陽の軌跡は丸い円を描く。このあたりのストレートなアプローチと、富士山頂や赤道上を含む綿密で粘り強い撮影作業の積み重ねは、いかにも体育会系の写真家である伊島らしいといえるだろう。
ただ残念なことに、展示が小さくまとまってしまった。つるつるのプラスティックでコーティングしたような仕上げではなく、もっとざっくりとした荒々しいインスタレーションの方が、テーマにふさわしかったのではないだろうか。広告や雑誌を舞台にする写真家の展示に共通する弱点が、この場合にもあらわれてしまったということだろう。

2009/08/22(土)(飯沢耕太郎)

真夏の夢

会期:2009/08/16~2009/08/30

椿山荘[東京都]

昨年は六本木の住宅展示場で若手アーティストの展覧会を開いた「団・DANS」が、今年は結婚式場で知られる文京区の椿山荘を借りて、庭園と宴会場に作品を展示した。芝生の庭に色とりどりの作品を並べたり(秋好恩)、散策路にありえない標識を立てたり(中田ナオト)、鯉の棲む池に巨大ファスナーを横たえたり(北川純)、明治の元勲・山縣有朋が基礎を築いたという名園でよくこんなことをやらせたもんだと感心する。いくら8月はヒマとはいえ式場はけっこう稼動しているし、新郎新婦が庭に出て池をながめたら巨大なファスナーが浮かんでたなんて、シャレにならないではないか。あ、ファスナーはふたつのものをひとつに結びつけるからシャレになるか。でも、ひとつのものをふたつに分ける機能もあるから、やっぱりシャレにならんわいケーケー。

2009/08/22(土)(村田真)

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