artscapeレビュー

2009年09月15日号のレビュー/プレビュー

鴻池朋子 展──インタートラベラー 神話と遊ぶ人

会期:2009/07/18~2009/09/27

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

絵画、彫刻、インスタレーション、映像とさまざまなメディアを駆使して、広大なギャラリー空間を1冊の絵本のように編集してしまった力技は、見事というほかない。一つひとつを個別に見ると、絵はイラストっぽかったり、ミラーボールを使ったインスタレーションは学芸会ぽかったりもするが、それをカバーしてお釣りがくるほどの想像力の大きな流れが全体を貫いている。

2009/08/26(水)(村田真)

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NEOREAL「パワープロジェクターが創造する新たな映像表現の世界」

会期:2009/08/27~2009/08/29

東京ミッドタウン[東京都]

キヤノン株式会社が2009年のミラノサローネで発表した「NEOREAL」展が東京にて再現された。期間は三日のみ。三部構成の体験型展示のうち、目玉は平田晃久(建築家)と松尾高弘(インタラクティブ・アーティスト)によるコラボレーション作品。平田による空間構成は、「animated knot」と名付けられた、結び目の幾何学によって生まれる有機的な三次元空間。半円形が上下に複雑に絡み合うように組み合わされ、伸縮性の膜が張られることで襞的な連続空間が生成されていた。松尾による「Aquatic Colors」と題された作品では、クラゲなどの映像が壁面に投影され、それらは触れると反応してインタラクティブに動いた。実際にはミラノサローネでの展示から、全体の形態を変えて再構成したものであったという。巨大で複雑な構築物のようでありつつ、柔軟に外形にあわせて変形できるところは、空間原理の強度が示されていたように思えた。シンプルな原理が生み出す官能的な空間体験だった。

2009/08/26(水)(松田達)

「骨」展

会期:2009/05/29~2009/08/30

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

デザインの根幹を骨格から捉え直しながら、未来のデザインを探索しようとする展覧会。会場は、生物や工業製品の骨を写真や分解模型などで展示する「標本室」と、未来の骨について思考するきっかけを与える制作物を展示した「実験室」の二つのパートからなる。展覧会ディレクターは山中俊治、会場構成はトラフ建築設計事務所。生物と工業製品を、同じ視点で捉えていくことによってデザインを考えていこうという視点が面白い。筆者は運良く山中氏によるツアーに参加することができた。「ダチョウの骨のひざに見える部分は実はかかとである」「亀の甲羅は背骨と肋骨があわさったものである」など、意外な事実の説明などを受け、骨から見える新しい視点の可能性を知る。「実験室」では、エルネスト・ネト、明和電気、THA/中村勇大など、多様な作家の作品が展示。どれも興味深かった。特に、慶応義塾大学山中俊治研究室による「Flagella」は、硬質な骨自体がクネクネと動いているように見える未来の骨的なオブジェクトが印象に残った。

2009/08/26(水)(松田達)

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『野島康三写真集』

発行所:赤々舎

発行日:2009年7月17日

かえすがえす残念だったのは、京都国立近代美術館の「野島康三 ある写真家が見た日本近代」(2009年7月28日~8月23日)を見過ごしてしまったこと。ついもう少し長く会期があるように錯覚していて、気がついたら展示が終わっていたのだ。展覧会とほぼ同時期に、赤々舎から写真集が出ているので、そちらを取り上げることにしよう。
野島康三(1889~1964)は、いうまでもなく日本の近代写真の創始者の一人。写真家として重厚なヌードやポートレートで高度な表現領域を切り拓くとともに、洋画専門の画廊、兜屋画堂の経営(1919~20)、月刊写真雑誌『光画』の刊行(1932~33)など、日本の戦前の芸術・文化の状況に重要な足跡を残した。本書は京都国立近代美術館に保存されている彼の作品のほとんどすべてをおさめた、決定版といえる写真集である。ページをめくれば、野島が日本の写真家にはむしろ珍しい、強靭な視線と骨太の造形力の持ち主だったことがわかるはずだ。以前、アメリカの「近代写真の父」アルフレッド・スティーグリッツと野島の作品が並んで展示されているのを見た時、野島の方が圧倒的に力強いオーラを発しているのに驚嘆したことがある。今回の写真集及び写真展では、これまであまり注目されてこなかった『光画』以後の、技巧をこらしたモード写真や静物写真、また彫刻家・中原悌二郎や陶芸家・富本憲吉の作品集のために撮影された写真などにもスポットが当てられている。野島の作品世界の全体像がようやく姿をあらわしてきたといえるだろう。
写真集のレイアウトで気になったのは、初期の「にごれる海」(1910~12頃)など、「芸術写真」の時代の名作のいくつかが、断ち落としで掲載されていること。このように画面の端が切れてしまうと、絵画的な、厳密な美意識で為されていたはずのフレーミングがわかりにくくなってしまうのではないだろうか。

2009/08/27(木)(飯沢耕太郎)

大巻伸嗣「絶・景──真空のゆらぎ」

会期:2009/08/01~2009/11/08

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

トーキョーワンダーサイト(TWS)からステップアップしたアーティストのひとり、大巻伸嗣の個展。ゴミを燃やして生成されたスラグという砂状の物質を、デ・マリアの「アースルーム」のごとく2階のギャラリーいっぱいに敷きつめ、1カ所に穴を開けて1階の床に山をつくったり、別の部屋では黒い空間にスラグで土手をつくり、水をたたえて舟を配し、正面の壁に都市のイメージを映し出したりしている。大巻はTWSとともにゴミや環境問題についてのリサーチを続けているというが、まだ「作品」としてこなれてないように思う。

2009/08/27(木)(村田真)

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