2018年10月15日号
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artscapeレビュー

2009年10月01日号のレビュー/プレビュー

ART OSAKA 2009

会期:2009/08/21~2009/08/23

堂島ホテル[大阪府]

今年の『ART OSAKA』は、初めてプレビューデー(21日)を設けるなど、昨年の課題を生かした改善点が見受けられ、着実な進歩がうかがえた。昨今の不況に配慮してか、各画廊の出品物は小品が多い印象。手堅い判断とも言えるが、ある関係者からは「美術館クラスの作品を求めるディープなコレクターには物足りないかも」との声も。単価の高い作品が少ないということは、数をさばかなければ利益が出ないということであり、そのあたりの吉凶がどう出たのかが興味深いところだ。つくづくアートビジネスは難しいと実感。

2009/08/21(金)(小吹隆文)

彫刻 労働と不意打ち

会期:2009/08/08~2009/08/23

東京藝術大学大学美術館陳列館[東京都]

大竹利絵子、小俣英彦、今野健太、下川慎六、西尾康之、原真一、深谷直之、森靖の8名による彫刻展。タイトルにも示されているように、彫刻の制作を広い意味での「労働」としてとらえ、その過程で訪れる「不意打ち」を中心的なコンセプトとして展覧会が練り上げられているようだ。だが、「労働」が生産利益のために合目的に労働力を使用することを意味している以上、ほとんどの場合、生産利益を直接的に回収できる見込みがない彫刻の制作活動を安易に「労働」とみなすことはできないし、その制作過程から想定外の「不意打ち」が生まれるとしても、それがそのまま鑑賞者に到達するともかぎらない。報われる保証が一切ないまま、他者と共有可能な精神性を目指して、ただひたすら手を動かし続けること。ようするに、同展のタイトルは通俗的な「芸術」観を難解な言葉で言い換えたにすぎない。同じように、同展の出品作品は、通俗的な「彫刻」概念の範囲内に収まるものが多く、なかなか「不意打ち」を食らうことはできなかった。そうしたなか、「彫刻」らしからぬ作品で「不意打ち」という言葉に値する衝撃を辛うじて与えていたのは、陰刻鋳造による特異な量感を獲得する西尾康之の《Organ》(2006)と、新作の《復顔、粘土法》(2009)、そして地下鉄の通気口から吹き上がる風にスカートがあおられるマリリン・モンローの通俗的なイメージに、同じく通俗的な河童のそれを融合させた森靖の奇怪な木像作品《Much ado about love-Kappa》(2009)。とりわけ通俗性を二乗するような手法を披露した後者は、おそらく「彫刻」というジャンルの通俗性に自覚的であるという点で、今後の展開に注目したい。

2009/08/21(金)(福住廉)

白と黒(「武満徹の映画音楽」より)

会期:2009/08/19~2009/08/25

ラピュタ阿佐ヶ谷[東京都]

1963年制作、堀川弘通監督による社会派サスペンス映画。主演の小林桂樹のほか、仲代達矢、乙羽信子、大空真弓、淡島千景、井川比佐志、西村晃と東野英二郎(新旧水戸黄門の共演!)などがそれぞれ味わい深い演技を見せ、さらには松本清張や大宅壮一といった知識人もチョイ役で出演するなど、豪華絢爛な出演陣が観客を魅了する。おまけに、当時の社会風土を織り交ぜながら、物語を二転三転させる骨太の脚本が、いかにも渋い。2時間弱の映画であるにもかかわらず、ひじょうに密度の濃い時間を経験できた。企業とタイアップしたほとんど広告のような薄っぺらいモノガタリが横行する昨今、こうした硬派な物語にこそ、エンターテイメントの真髄があるにちがいない。

2009/08/24(月)(福住廉)

松田修「オオカミ 少年 ビデオ」

会期:2009/08/20~2009/09/19

無人島プロダクション[東京都]

今春、東京藝大の大学院を修了した新進気鋭のアーティスト、松田修の初個展。というと、いかにも小賢い理論派の美術家によるクールな作品を連想してしまいがちだけれど、松田の魅力はその対極にある。彼の作品は、何よりもまず、徹底的に下品である。その潔さが心地よい。といはえ、エロとグロと暗い笑いが渾然一体となった作風が、多くの鑑賞者の目を背けさせてしまいがちなのは事実だ。けれども、それらはたんにお下劣なネタを披露するだけのアートではなく、むしろ万人にとって興味があるエロをとおして、鑑賞者の無意識に働きかけるための戦術なのだ。中年サラリーマンの頭から抜け落ちた髪が鼻孔の鼻毛と通じ合うドローイングに見られるように、松田が掘り起こそうとしているのは、「私」と「もの」がそれぞれ異なりながらも、どこかで通底する次元だが、それは凡庸な日常生活の影に隠れているため、ほとんど知覚することはない。しかし、松田本人を被写体とした静止画像をつなぎあわせた断続的な映像を見ると、滑らかな時間性に穿たれた裂け目からその根源的な地平がありありと浮かび上がってくるのがわかる。「おれ」と「おまえ」が果てしなく循環する円環的な原型。その系譜を辿るとすれば、現代美術の伝統より、むしろギャグ漫画の帝王である赤塚不二夫にたどり着く。おしりから昆布が出てきて慌てふためくおっさんに、バカボンのパパは昆布の先端を結んで輪にしてしまい、「また食べなさい!! 口から食べるとおしりから出てくるのだ 出たらまた食べてまた出たら食べるのだ いつまで食べてもキリがないのだ!!」と喝破するが、松田修と赤塚不二夫はおそらく同じ地平を見通しているにちがいない(バカボンについては『文藝別冊 赤塚不二夫』の19頁を参照)。

2009/08/24(月)(福住廉)

アーバン/グラフィティ・アート展

会期:2009/08/14~2009/08/25

Bunkamura Gallery[東京都]

UKのグラフィティ・アートを集めた展覧会。セックス・ピストルズのジャケットで知られるジェイミー・リードの《Union Jack God Save the Queen》をはじめ、バンクシーやニック・ウォーカーなどによるシルクスクリーン、およそ100点が展示された。ステンシルの導入以来、グラフィティはヴィジュアル・イメージの度合いが増すとともに、商業的な価値も高めていったが、同展に展示されたグラフィティ・アートはまさしく「アート」に比重を置いたグラフィティだった。逆にいえば、そこに「ストリート」の野蛮な香りを求めることがかなわないほど、今日のアーバンはアート化されているということなのだろう。

2009/08/25(火)(福住廉)

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