artscapeレビュー

2009年12月01日号のレビュー/プレビュー

オラファー・エリアソン──あなたが出会うとき/Olafur Eliasson Your chance encounter

会期:2009/11/21~2010/03/22

金沢21世紀美術館[石川県]

開催2日前のスペシャル・トークで作家が強調していたのは「パブリック(公共)」という概念。美術作品や美術館はある種の理想を達成するために作り出されたものであり、作品を通して美術館の構造や役割を体感することで、われわれは新たな臨界点へ到達できるのではないか、と。そして、作品をどう受けとめるかは自由だが、観客にも「責任」が発生するとも。これらは決して新奇な発想ではないが、極めて審美的な作品の背景に実は骨太な思想が込められていた事実を知り感心した。肝心の作品だが、濃霧が垂れこめた室内が赤、青、緑の光で満たされた《Your atmospheric colour atlas(あなたが創りだす空気の色地図)》や、光が水面で反射して壁面にオーロラのようなスペクトルが出現する《Your watercolour horizon(水が彩るあなたの水平線)》など見応えのあるものばかり。原美術館での個展(2005~06年)で得た感動よ再び、という筆者の期待は、予想を遥かに上回るレベルで実現された。

2009/11/20(小吹隆文)

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快快のGORILLA(フェスティバル/トーキョー関連イベント)

会期:2009/11/13~2009/12/18

F/Tステーション[東京都]

フェスティバル/トーキョーならば、もっと取り上げるべき作品があるのかもしれないけれど、快快が「ゴリラの着ぐるみを着た役者を催眠術にかけてゴリラにする」というアイデアを聞いて、ワクワクして詰めかけた。演劇における役者と演出家の関係は、被支配と支配の関係、コントロールされる/する関係。それが極端になった先にあるのが被験者と催眠術師の関係? ゲストに招いた催眠術師の川上たけしが登場すると、1分後には着ぐるみのゴリラはゴリラと化し、前に坐っていたお客たち(大学生くらいの女3人)は、次々と催眠状態にさせられた。川上が「クリームみたいな味に変わっています」なんて言うと、女の子は大口を開けて大量のチューブわさびを受け入れる。「全然辛くない」とぽつり。観客の一人としてハイバイの岩井秀人は「尾崎豊にしてください、でも抵抗します」と願い出て川上と対面するが、一向にかからなかった。これ演劇の企画? ただのパーティ? これを彼ららしい遊び心とみなして一笑するのも悪くないと思う。けれども「演劇」という概念の拡張を画策している気もするのだ(川上の「催眠術ショー」になってしまったのは残念で、ぜひ川上の催眠術を用いた演出で短くても作品を上演して欲しかった)。そもそも、着ぐるみを見ていると本物と錯覚してしまうなんてことは一種の催眠だし、舞台を見ていて役柄に感情移入してしまうのもある意味で催眠だ。12月11日には、ゴリラの着ぐるみを着たメンバーたちが、岡田利規演出のもと『三月の5日間』を上演するのだそう。岡田と催眠術師を横並びにしてイベントを進めてしまう彼らのスケールは、やっぱりちょっと尋常ではない。

2009/11/27(金)(木村覚)

黒沢美香『耳』(ミニマルダンス計画──起きたことはもとにもどせない)

会期:2009/11/25~2009/12/06

こまばアゴラ劇場[東京都]

久しぶりに「黒沢美香らしい黒沢美香に圧倒させられる」という喜びを味わった。共演のコントラバス奏者・齋藤徹は白髪の巨体、黒沢の身体を普段より一層小さく見せた。本作の魅力を引き出したのは、第一に、このコントラストだったろう。胸のあたりがややだらしなくVネックになった赤いレオタードの黒沢は、普段以上に彼女を少女に見せる。冒頭、黒沢と向き合い、体をくねらせ手を激しく回すと齋藤は衣擦れの音を奏でる。けれども、その身のこなしはミュージシャンをダンサーにする。黒沢も横で踊るが、その踊りからも音が漏れている。うまい。音楽家もダンサーも、どちらも演奏しダンスしている。そう示すことで2人は舞台上で対等の存在になっていた。音楽家とダンサーのセッションでいいものはきわめて少ない、とくにこうした対等の関係が成立していることなんて本当にない。以前本レビューで紹介したサンガツとホナガヨウコのセッションはきわめてレアな成功事例。その成功がお互いをよく見、よく聴くことにあったとすれば、黒沢と齋藤とのあいだで起きていたのも、まさにそうした聴くことと見ることの高密度なクロスオーヴァーだった。少女な黒沢と先に述べたけれど、黒沢の少女性は、つんとすまして我を張って、なのに他人に振り回されてしまうところにあって、そんな集中と気散じが黒沢の身体を通してリズムを生む。黒沢らしいダンスを堪能した一夜だった。

2009/11/28(土)(木村覚)

野兎の眼 松本典子 写真展

会期:2009/11/03~2009/11/28

Calo bookshop & cafe[大阪府]

奈良の奥吉野に住む少女を10年にわたり追い続けた写真作品。その過程で少女は母親になったが、本作の目的は彼女の成長を追うことではない。写真家と被写体が綱渡りのように保ち続けた繊細な「距離感」こそが重要なのだ。展示はセレクトされた約40点で構成されており、コンパクトながらも豊かな空間が作り出されていた。同時に分厚い作品ファイルも出品されていて、より濃密に10年間の軌跡を味わうこともできる。編集次第でさまざまなバージョンを作れるのは写真ならではの醍醐味だ。

2009/11/3(小吹隆文)

プレビュー:『HARAJUKU PERFORMANCE + (PLUS)2009』/庭劇団ペニノ『太陽と下着の見える町』/快快のGORILLA

年末恒例になってきた『HARAJUKU PERFORMANCE+』(12月19日~23日)。今年はやはりロマンチカと菊地成孔のコラボレーションが気になりますね。庭劇団ペニノ『太陽と下着の見える町』(12月5日~13日@にしすがも創造舎)も必見。タニノクロウの想像力は演劇という枠に縛られないところがあって、たとえば、演劇人よりも松本人志などと並べてみたらよいのかもしれない(「ガキの使い~」とか)。今回は、強烈な想像力がかなりはっきりと彼一流の「エロ」へと絞られているよう、その点でも見逃せません。もちろん快快のGORILLAイベント(特に12月11日)も見逃せません。チェルフィッチュと快快の「F/T」での出会いなんて、シュルレアルな事件になること間違いなしです。
ああもう今月でゼロ年代終了!来年は新しいディケイドのはじまりです(不況は一層ひとの心を萎ませるでしょうが、だからこそ作家の使命は一層高まりまた問われるに違いないですね。そう思うと楽しみな次の十年でもあります)!

2009/11/30(月)(木村覚)

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