artscapeレビュー

2009年12月15日号のレビュー/プレビュー

『建築ノート EXTRA UNITED PROJET FILES 03』

発行所:誠文堂新光社

発行日:2009年12月20日

「建築ノート」での妹島和世+西沢立衛/SANAAの特集号である。27の最新プロジェクトの紹介に加え、SANAA、妹島事務所、西沢事務所のプロジェクトそれぞれが色別となった、1/2000でそろえられたプロジェクトの図面集、クロニクルデータなど、SANAAを知るための新しい視点が見つけられそう。これだけでもこの号は実に魅力的なのであるが、加えてニューヨークのアーキテクト特集、世界で活躍する日本人建築家(歴史的にも掘り下げてある)特集もある。特に気になったページをいくつか。『Volume』の全号紹介ページは、2ページにつめられた情報量がすごい。ユーロパン特集ページは、ヨーロッパで知られるものの、日本であまり紹介されてこなかったユーロパンという重要なコンペについて。過去の実現案がまとめられている。建築教育国際会議(IAES)についての今村創平氏のレポートも、過去の磯崎新や伊東豊雄の言説から振り返るなど充実していた。この雑誌(正確にはムック)は、実はバイリンガルなので、海外で知られ始めたときの影響力も強いだろうと感じた。

2009/11/29(日)(松田達)

軽い手荷物の長い旅

会期:2009/10/31~2009/11/14

大阪成蹊大学芸術学部ギャラリーspaceB[京都府]

DMにはどこかの国の電車の切符の写真が使われていた。切符に小さく記されたほとんどの注意書きの文字が鉛筆で塗りつぶされているのだが、よく見ると“The ticket is valid unlimited traveling”という一部分だけは塗りつぶされておらず、英語が苦手な私でも胸が躍った。タイトルもさることながら、物語性にあふれたDMだ。作家はストックホルム在住の石塚マコ。会場には、外国で暮らす彼女の、旅や日常の出来事にまつわるいくつかの作品がインスタレーションされていた。なかでも面白かったのは屏風のように折られたスクリーンの裏表両面に映し出される《彼女なりの物語》。石塚が出会った国籍も職業もさまざまな5人の友人達がそれぞれの母国語でメガネにまつわる思い出を語る様子が順番に投影されるのだが、それらの話の内容を伝える「翻訳」の字幕は、語り手の身振りや口調から石塚が想像で解釈したもので、それぞれの言語を正しく訳したものではない。その裏側では、同じくメガネに関する個人的なエピソードを石塚が日本語で語る様子が映し出される。こちらも、友人たちが彼女の様子から想像だけで解釈した翻訳。よって、映像自体は同じものが繰り返されるのに、まったく異なる5パターンの字幕(物語)が展開する。山折り、谷折りの薄いスクリーンは映像が微妙に歪んで見えるのだが、他者との関係性やその距離感、そこでの齟齬や理解の限界など、さまざまなコミュニケーションの有様を可笑しくも如実に表わしていた。

2009/11/2(月)(酒井千穂)

アトリエ・ワン『空間の響き/響きの空間』

発行所:INAX出版

発行日:2009年10月10日

現代建築家コンセプト・シリーズの第五弾である。いくつかの写真が挿入されているものの、基本的に自作の紹介はほとんどない。アトリエ・ワンのエッセイ集となっている。彼らが都市を観察し、普段、どのようなことを考えているかを綴ったものだ。動物、虫採り、トンカツ屋、スポーツ、ワールドカップなど、アトリエ・ワンらしい切り口から、独自の空間論が展開していく。一見ばらばらのようだが、全体としてはゆるやかな現代東京論にもなっている。言うまでもなく、彼らが拠点とする都市だ。世界との比較も交えながら、場所の響きに耳を澄ませる日常の観察は、必然的に身のまわりのユニークさを浮上させる。個人的には、立派な建築が都市空間にうまくはまっていないために、首都高速などの土木構築物が結果的に近代のモニュメントになったというエッセイ「東京のモニュメント」をとくに興味深く読んだ。

2009/11/30(月)(五十嵐太郎)

『建築以前、建築以後 Before Architecture, After Architecture』

発行所:アクセス・パブリッシング

発行日:2009年11月25日

2009年の夏、小山登美夫ギャラリーで開催された建築展「建築以前・建築以後」のカタログ。同展では、鈴木布美子のキュレーションにより、菊竹清訓、伊東豊雄、妹島和世、西沢立衛の4人のプロジェクトの模型、ドローイング、そして写真(ウォルター・ニーマイヤーやホンマタカシが撮影)を展示したが、それらの作品と会場写真が収録されている。彼らは師弟関係にあり、いわば、戦後日本建築のアヴァンギャルドの直系をたどる内容だ。鈴木による出品作家へのインタビューがあるほか、巻末に寄稿された保坂健二朗のテキスト「なぜ建築はコレクションされるべきなのか」が興味深い。もともと、この展覧会が開催されたのも建築資料の問題を契機としていたが、保坂はまず欧米をレビューし、日本のお寒い状況に触れながら、建築もコレクションすることでミュージアムも変容する可能性を論じている。

2009/11/30(月)(五十嵐太郎)

吉田桂二『間取り百年──生活の知恵に学ぶ』

発行所:彰国社

発行日:2004年1月

建築家による20世紀の日本住宅史である。興味深いのは、戦争を分水嶺とし、戦前と戦後では、住宅において未曾有の大変動が起きたことを指摘していることだ。戦前は民家の時代であり、普通の人は自分の家を所有していなかったのに対し、戦後は持ち家が当たり前になり、住宅産業の時代に変化したという。いわゆる建築家が登場するのは、1950年代の池辺陽らの最小限住宅だけなのだが、それは唯一、建築家の試みが社会に届く可能性をもっていたからだ。本書においてユニークなのは、著者自身による手描きの図面である。ほとんどがフィールドワークなどによって自ら採集したものであり、しかも家具や住人が寝ていた位置なども細かく書き込まれている。ゆえに、抜け殻のような図面ではない。生活が具体的に想像できる絵なのだ。そこから当時の世相も見事に浮かびあがる。

2009/11/30(月)(五十嵐太郎)

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