artscapeレビュー

2010年01月15日号のレビュー/プレビュー

豊嶋浩子「詩と絵画」─宮沢賢治『春と修羅』より─

会期:2009/11/24~2009/11/29

立体ギャラリー射手座[京都府]

宮沢賢治の詩の一節と日本画を組み合わせて展示。詩を通して絵画を味わうか、絵画を通して詩の世界に思いを馳せるか、どちらにせよ味わい深い個展となった。文学からインスパイアされた美術作品は決して珍しくないが、本展の印象が良かったのは絵画の出来が良かったから。作者の豊嶋は広島在住の大学院生。最近は日本画の若手にヒットが少ないので、その反動もあって余計に感心したのかもしれない。彼女の着実なステップアップに期待する。

2009/11/25(水)(小吹隆文)

SYNCHRO-THEISM(シンクロ・ティズム):スピロデザイン(宇野裕美/河合晋平/常見可奈子)

会期:2009/11/25~2009/12/06

海岸通ギャラリーCASO[京都府]

宇野、河合、常見はこれまで、動植物、細胞、微生物など、自然世界からインスパイアされた有機的なイメージのオブジェをそれぞれに発表してきた。互いの作品にシンクロニシティを感じて共同制作を試みたという今展は谷本研のコーディネートによる展覧会。タイトルの「SYNCHRO-THEISM」は、一神論とも多神論とも異なる新たな自然観を表わした造語で、“同期神論”という意味らしい。2つのインスタレーションがあったが《SYNCHRO-THEISM-X》は、まるで一人の作家の作品かと思うほど。宇野のファイバーアート、生きものに見立てた河合のオブジェ、常見の工芸的な要素が見事にひとつになって、奇妙な生物世界(イメージ)を創出していて、強烈な個性の集合でもこれだけ違和感のない作品ができるものなのかと感心してしまった。

2009/11/27(金)(酒井千穂)

医学と芸術 展:生命と愛の未来を探る

会期:2009/11/28~2010/02/28

森美術館[東京都]

文字どおり医学と芸術をキーワードにした展覧会。ダ・ヴィンチの素描から人体解剖図まで、河鍋暁斎からデミアン・ハーストまで、手術器具から義足・義眼まで、古今東西の芸術作品と医学資料200点あまりを一挙に並べた展示がじつにスリリングでおもしろい。たとえばアルヴィン・ザフラの《どこからでもない議論》(2000)は、人間の頭蓋骨をサンドペーパーの上で幾度も研磨して仕上げた平面作品。骨の粒子で構成されたミニマルな絵画の美しさは、人間の死を即物的にとらえる厳しさに由来している。ヤン・ファーブルの《私は自分の脳を運転するII》(2008)は、題名どおり男が自分の脳を運転する様子を描いた小さな立体作品だが、見ようによっては逆に脳にひきづられているようにも見える。すべての原因を脳に帰結させる唯脳論が世界を席巻している現状を皮肉を込めて笑い飛ばしているかのようだ。渾然一体とした会場を歩いて思い至るのは、これほどまでに生と死の謎を解明しようと努力してきた人類の知的な営みだ。「死」をできるだけ遠ざけることによって「生」を可能なかぎり持続させること。これこそ今も昔も人類にとっての普遍的な問いである。けれども本展に唯一欠落している点があるとすれば、それはそうした知的な営みが歴史的に繰り広げられてきたのは疑いないとしても、それと同時に、人間は人間の生殺与奪を繰り返してきたということもまた揺るぎない事実だということだ。生と死の謎を根底的に解明するのであれば、この暗いアプローチを無視するわけにはいかない。そこで本展を見終わったあとに、駿河台の明治大学博物館に出掛けることをおすすめしたい。そこには数々の拷問器具が立ち並んでおり、苦しみを与えながら生を奪い取ってきた人間の業の深さを体感できるからだ。

2009/11/27(金)(福住廉)

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HEARTBEAT-SASAKI展

会期:2009/11/10~2009/12/18

第一生命南ギャラリー[東京都]

心臓の鼓動を描いたドローイングを見せる展覧会。30点あまりの平面作品をそれぞれテーブルの上に並べて空間インスタレーションとして発表した。赤いインクが描くジグザグ模様は心臓の鼓動のリズムを忠実に反映しており、だからそれらが密集した赤い画面は作者の生の何よりの例証である。けれどもふつう、わたしたちがそうした生の根拠を意識することはほとんどないので、赤い線によって心臓の収縮活動をこれほどまでに実直に示されると、ある種の居心地の悪さを感じざるを得ない。しかしメメント・モリとは、まさにこうした不安の感覚と表裏一体だったことを思えば、これらの作品はまちがいなく現代版のメメント・モリである。

2009/11/30(月)(福住廉)

おとし穴(特集上映「映像の中の炭鉱」)

会期:2009/11/28~2009/12/11

ポレポレ東中野[東京都]

目黒区美術館で催されていた「‘文化’資源としての〈炭鉱〉」展の第三部「映像の中の炭鉱」として催された映像プログラムのひとつ。1962年の勅使河原宏監督作品で、原作・脚本が安部公房、音楽監督に武満徹、音楽に一柳慧と高橋悠治。主演は井川比佐志、田中邦衛、佐々木すみ江、佐藤慶など。物語は炭鉱を舞台にしたサスペンスで、田中邦衛が扮する白いスーツの謎の男が次々と殺人事件を犯してゆく。安部公房=勅使河原宏の映画としては定番の不条理劇だが、この作品がおもしろいのは、生身の身体と死体、そして霊魂をそれぞれ同じ役者が演じ分けることによって、不可解な物語に独特のユーモアを添えているからだ。そのせいか、安部公房=勅使河原宏にしては珍しく笑いながら楽しめる映画になっている。資本家による陰謀を匂わせる結末にはいかにもイデオロギー的な偏りが見られるが、それを上回る映像美を見せるところが勅使河原作品の真骨頂である。ボタ山の鋭い稜線上で群れる野犬の影は、息を呑むほど美しい。

2009/12/02(水)(福住廉)

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