artscapeレビュー

2010年04月01日号のレビュー/プレビュー

眠る為に 中山恵美 展

会期:2010/03/04~2010/03/30

オソブランコ[大阪府]

2年前の個展から花びらを画材として用いるようになった中山。絵具で描かれたピンボケの風景と点描のような花びらのコントラストにより、現実と非現実の狭間にいるような不思議な絵画空間が生み出される。新作で描かれているのは、森の中の邸宅と、野火がついた草原と、顔面をクローズアップした自画像。なかには火がついた家や草原もある。燃える家は棺桶のメタファーらしく、展覧会全体に死のイメージが色濃いのも印象的だった。

2010/03/06(土)(小吹隆文)

矢内原美邦『あーなったら、こうならない。』

会期:2010/03/05~2010/03/07

横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール[東京都]

二部構成。前半は明るい舞台。若いダンサーたちの素早く強い動き、不意にあらわれるユニゾン。痙攣的な仕草が散りばめられたダンスは、〈矢内原スタイル〉とでも称したくなる固有のテイストを感じさせる。ついたりふんだり、ダンサー同士の関係を見ていると、その協調しない/できない状態が私たちの人生の常態であると象徴的に語られているように思われる。床に置かれた複数のテレビに映るのは、落下する人間のアニメーション。不調和の雰囲気は、次第に取り返しのつかないなにかと繋がっているような予感を帯びてくる。後半の起点は、白い床の上に黒い巨大な布が被さり、そこから黒い衣装の矢内原が出てきた場面。戦争や災害のニュース音声が響く。艶のあるハイヒールに茶髪姿の矢内原はソロで激しいダンスをみせる。空気が送られると膨らんだり萎んだりする黒い布はアネット・メサジェの作品を想起させられた。収拾のつかないまま放り出されたような暗くて激しい情動が「黒」という色彩の内に吸い込まれてゆく。恐ろしくときに美しい暴走は、独特の高揚感を湛えながら突き進んだ。内向する傾向がダンスの作家にはある(媒体がしばしば自己の身体であることにその理由があるのだろうか)。ある昇華を経るとその傾向はこう結晶するというひとつのサンプルを見た気がした。

2010/03/06(土)(木村覚)

かなもりゆうこ展 物語─トショモノ

会期:2010/03/08~2010/03/27

ギャラリーほそかわ[大阪府]

親密な友人たちとの交流を撮影し、ドキュメントとフィクションの中間的な映像作品をつくってきたかなもりだが、新作はやや映画よりで、ストーリー性のある物語が綴られていた。映像は壁面と見開いた書籍に投影されており、作品中に登場する衣装や書籍が展示室に配置されている。また、作品の一部が本展会場で撮影されていることもあり、映像空間と現実空間の境界が曖昧なのだ。これまでの作品がドキュメントとリアルの境界を彷徨っていたとしたら、本作はスクリーンの向こう側と手前側の往還がテーマである。かなもりはまたひとつ新たな彼女独自の文法を獲得した。

2010/03/08(月)(小吹隆文)

TASTING ART EXHIBITION

会期:2010/03/03~2010/03/14

阪急百貨店メンズ館[大阪府]

百貨店とアートが手を組む試みはバブル期にしばしば見られたが、不況の昨今はとんと御無沙汰である。そんな状況下で珍しく開催されたのが本展。男性向けのショップが並ぶ阪急百貨店メンズ館の地下1階から地上4階までの各フロアに、約60作家、約100点の作品が展示された。展示方法は平面作品をイーゼルにかける形式が多く、正直取ってつけた感は否定できない。もし今後も継続するなら展示方法には改善の必要がある。そんななか、まるで最初からそこにあったかのごとくマッチしていたのが越中正人と岡本啓だ。2人の展示に同種のイベントの可能性を感じた。傍から見ても交渉事が多く大変そうな企画だが、今後も継続されることを望む。

2010/03/09(火)(小吹隆文)

展示の展示 豊嶋秀樹の仕事について

会期:2010/03/09~2010/03/20

OZC GALLERY+CAFE[大阪府]

クリエイティブ・ユニット「graf」の設立メンバーであり、現在は「gm project」として活動している豊嶋が、珍しく本人名義の個展を開催。会場に入ってみると彼自身の作品らしきものはなく、過去の奈良美智との協同作業などを記録した映像が流れるのみ。ほかは会場とゆかりのある作家の作品が少々展示されているぐらいだ。頭の中を「?」が駆け巡る。「これは大コケの展覧会ではないか」と。しかし会場をよーく見ると、至る所に付箋が貼ってある。そこには豊嶋によるメモ書きの数々が。これこそが本展のキモ。豊嶋が作品をつくるのではなく、彼の仕事のドキュメントをするのでもなく、会場と作家による交感の過程そのものが展覧会として提示されているのだ。非常に珍しいタイプの展覧会だが、場と人の関係を見せる新たな方法論と成りうるのではないか。

2010/03/11(木)(小吹隆文)

2010年04月01日号の
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