artscapeレビュー

2010年04月15日号のレビュー/プレビュー

表現者、田淵行男III 本に全てを捧げた人

会期:2010/02/23~2010/06/20

田淵行男記念館[長野県]

ネイチャー・フォトの優れた成果を顕彰する第3回田淵行男賞の審査のため、長野県安曇野市の田淵行男記念館に行ってきた。開設20周年を迎える同館は、日本の山岳写真と昆虫生態写真の草分けのひとりである田淵行男の作品や遺品を収蔵し、意欲的な展覧会を開催してきた。今回は、生涯に特装本などを含めて36冊の写真集、エッセイ集を刊行した彼の「本造りという要素」に注目した特別展である。
田淵は若い頃から、手作りのアルバムや写真集を制作し、蝶や昆虫の細密なスケッチ画を残している。そのデザイン感覚とデッサン力は、並の画家やグラフィック・デザイナーなどお呼びもつかないほど高度なものであり、後年になってその才能のすべてを惜しみなく本造りに注ぎ込んだ。写真集を作る時には、一ページごとに詳細なスケッチ画を貼り込んだダミーを制作し、レイアウトや文字指定もほとんど自分で行なった。その細部まで愛情を注ぎ込んだ造本は、独特の味わいを備えており、既に写真家、文章家として評価の高い田淵のデザイナーとしてのもうひとつの顔を浮かび上がらせている。彼の多くの著作が絶版になっているいま、復刊や文庫への収録などの企画をもっと積極的に進めていくべきだろう。
なお、今回の田淵行男賞は、審査員の全員一致で北海道札幌市在住の中島宏章の作品「BAT TRIP」に与えられた。コウモリの緻密な生態観察の成果を、おしゃれで説得力のある写真物語として展開した素晴らしい作品である。ネイチャー・フォトの分野も、ようやく新世代の胎動が感じられるようになってきたようだ。

2010/03/11(木)(飯沢耕太郎)

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東京画廊+BTAPカタログ・アーカイブ展

会期:2010/02/25~2010/03/13

東京画廊[東京都]

開設60年を迎えた東京画廊。杉浦康平デザインのカタログが壁にズラッと並び、机に写真が展示されている。岡本太郎、白髪一雄、高松次郎、関根伸夫らなつかしいカタログ、なつかしい顔ぶれ。机では画廊のおにーさんが資料整理している。

2010/03/11(水)(村田真)

第2回コレド・ウィメンズアートスタイル

会期:2010/03/05~2010/03/14

日本橋コレド[東京都]

コレドの吹き抜け空間を中心に、7人の女性アーティストが作品を展示している。人通りの多い公共空間だけにあまり思いきった冒険はできず、大半は別の場所でつくった作品を運び込んだもの。ネズミやウサギなどの小動物をグロテスクなまでに巨大化させた篠原奈美子の彫刻や、階段とカーテンをレリーフ状に彫ったトリッキーなちばふみ枝の作品などは、力作ながら、その場所に置かれる必然性に乏しい。そんななかで秘かに毒を盛っていたのが、口紅に見せかけた薬莢(その逆?)や、花柄レースの鉄の彫刻などを出品した佐々木かなえだ。こうしたうわべと中身のギャップを慎ましやかに表現する作品群は、ファッションビルという場所でこそ効力を発揮する。

2010/03/11(水)(村田真)

森村泰昌「なにものかへのレクイエム──戦場の頂上の芸術」

会期:2010/03/11~2010/05/09

東京都写真美術館[東京都]

ひとつおもしろかったのは、舌を出すアインシュタインに扮した写真の横で見せていた“メイキング”ともいうべき映像。森村が舌をベロッと出し、そのまま数十秒間ポーズし続ける。おそらくアインシュタインはペロッと舌を出した瞬間を撮られてしまったのだろうが、その1枚の「決定的瞬間」を再現するため、長時間静止する森村を動画でとらえるというアイロニー。次第に引きつってくる顔に森村の素がのぞく。

2010/03/12(金)(村田真)

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シュウゾウ・アヅチ・ガリバー「no fear」

会期:2010/03/05~2010/04/11

NADiff A/P/A/R/T[東京都]

壁一面に縦横5センチ程度の図形をびっしり描いてる。と思ったら、同じ図形もたくさんあるのでプリントだった。なにがおもしろいんだろう、と思ったら、床にダーマトグラフがころがり、いくつかの図形が赤い線で囲われている。囲い方にゲーム性や規則性があるわけでもなく、恣意的だ。参加型、というより「Do it yourself」な作品?

2010/03/12(金)(村田真)

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