artscapeレビュー

2010年06月15日号のレビュー/プレビュー

トーキョーストーリー

会期:2010/05/01~2010/05/23

トーキョ ワンダーサイト本郷[東京都]

トーキョーワンダーサイト(TWS)で行なわれたレジデンス事業の成果報告展。佐々木加奈子、志村信裕、村上華子ら8組の出品。TWS渋谷での報告展がストリートアート系でまとまっていたのに比べ、こちらはとりとめがなく、いまひとつ伝わってくるものがなかった。ま、東京滞在組だけでなく海外派遣組も合わせた混成部隊だからしかたないが。唯一、最後の部屋の村上のインスタレーション《澤田家の火事》は、作品の構造がきわめて立体的でわかりやすかった。床に火事で焼けこげましたみたいな柱や家具や鍋やコップが置かれ、正面の壁には火事にあったとおぼしき女の子(澤田さん?)が「焼け残ったものをもらってください」と訴える映像が流れている。ここまでならひょっとしたら本当の話かもと信じてしまいかねないが、しばらく映像を見てると、女の子がエスカレーター上で、あるいはスパゲティを食べながら、まったく同じセリフを繰り返しているのがわかり、演技だとバレる。その映像の上に携帯の番号が書かれている。この作品を完結させるには電話してみるべきだろう(しなかったけど)。その前に、インスタレーションをもう少し見られるようにしてね。

2010/05/11(火)(村田真)

金未来展 第一章~第三章「物語の幕開け(狭間に埋もれた心理の空洞)」

会期:2010/05/11~2010/05/23

neutron kyoto[京都府]

群青色が混じる闇の背景に一人の女性が描かれた一連の大きな絵画。深い奥行きをもつ闇の静寂といったが雰囲気があり、そのため一見穏やかな印象もあるのだが、近づいてみると驚く。胸騒ぎがするような繊細な描線の夥しい数と微妙な色の使い分け。描かれた女性の表情や色彩、線の流れの間に誘い込まれていくような気分だ。まだ20代の若い作家で発表経験も浅いそうだが、筆力というのか、繊細な描線で表現されるその作品世界は大きな存在感と魅力を放っていた。

2010/05/11(火)(酒井千穂)

富谷昌子「みちくさ」

会期:2010/05/11~2010/06/12

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

東京・京橋のツァイト・フォト・サロンでは、時々思いがけない新鮮な作風の若手写真家の展覧会が開催されることがある。今回の富谷昌子の「みちくさ」もそんな展示。故郷の青森を6×6判のカメラで撮影した、どちらかといえば古風な印象を与えるモノクローム作品が並ぶ。だが、その何枚かに写っている鳥、犬、山羊などの動物、とりわけ馬の写真が素晴らしい迫力で、見る者を異界に誘い込む強い力を発していた。同じ昌子という名前の小栗昌子が撮影する岩手県・遠野の情景もそうなのだが、東北地方の風土に潜む魔のようなものが、若い女性写真家の鋭敏なアンテナによってとらえられ、引き出されているのかもしれない。
もっとも、見る者を引き込んでいく力を備えた写真だけではなく、凡庸なものもかなり含まれているので、展示作品の選択にはもう少し注意深さが必要だろう。まっすぐに、どちらかといえば生真面目に被写体に向かう姿勢は悪くないが、のびやかな開放感に乏しく、固く縮こまっているように見える写真も少なくない。そのあたりを考えていけば、さらなるスケールの大きさが期待できるのではないだろうか。動物だけでなく、水たまりに映る樹木の影にピントを合わせた写真など、心理的な陰影を取り込んだ作品も気になった。自分でも分けがわからない衝動に突き動かされて撮影した写真を、もう少し増やしてもいいかもしれない。

2010/05/13(木)(飯沢耕太郎)

集合住宅物語

発行所:みすず書房

発行日:2004年3月1日

千葉大学の岡田哲史研究室主催の千葉大学建築レクチュアシリーズにて、植田実氏と同席する機会があり、その機会にと思って本書を手にとった。350ページの分厚い本。全ページの半分近くが、鬼海弘雄による豊富なカラー写真。この写真の量は尋常ではない。集合住宅物語とはよくいったものだ。植田のテキストはいわゆる一般的な建築的記述から、ぐいぐいと集合住宅における生活そのものに入り込む。「歴史」ではなく「物語」として、個々の集合住宅を描き出す。だから写真も竣工時のものではない。人や生活の風景がある、生きられた集合住宅の写真である。戦前と戦後、同潤会アパートから代官山ヒルサイドテラスまで、40近くの集合住宅が、植田の目で描き直される。一般的な建築本に慣れていれば慣れているほど、建築における「生活」をあぶり出す本書の描き方は、新鮮に見える。

2010/05/13(木)(松田達)

超京都 現代美術@杉本家住宅

会期:2010/05/15~2010/05/16

[京都府]

今年重要文化財指定となる杉本家は270年の歴史があるのだという。京町家と呼ばれるこの建物を会場にしたこちらのアートフェアは建物、空間自体がまさに「超京都」であり、京都ならではのアートフェアといえる。11画廊が参加して、古い家屋の床の間、仏間、庭、土間、応接間など各所に作品を展示。アートフェアというよりも、全体に展覧会の展示として楽しむような見応えがあり、どの空間も素晴らしかった。日も落ちた頃の暗い中庭のギャラリーキャプションの展示もさることながら、ギャラリー小柳の展示は特に美しく感動。床に腰を下ろし、手に取る距離で作品を眺めるよろこびも味わえる会場だった。

2010/05/14(金)(酒井千穂)

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