artscapeレビュー

2010年07月15日号のレビュー/プレビュー

トーキョーワンダーウォール公募2010入選作品展

会期:2010/05/29~2010/06/20

東京都現代美術館[東京都]

あいかわらずいまどきの絵画が中心だが、今回からだろうか、立体作品も何点か出ている。中国の彫り物みたいに極端に彫り込んだ木戸龍介の大理石彫刻と、たくさんのフィギュアを溶かして板状に固めたthreeの作品に注目。別のフロアでは、ワンダーウォールの10年を振り返る展示が行なわれ、大巻伸嗣、桑久保徹、流麻二果、日野之彦らいまをときめく(?)アーティストが出品。トーキョーワンダーウォール、よくも悪くもゼロ年代を代表する展覧会だったのかも。

2010/06/10(木)(村田真)

室内風景「西尾真代」

会期:2010/06/10~2010/06/13

よこはまばしアートピクニックTOCO[神奈川県]

床屋さんだった店鋪を改装したギャラリー(だからTOCO)にも興味をもったが、なにより西尾真代の作品を見たかったので、横浜市営地下鉄の板東橋まで足を伸ばす。彼女は一貫して自分んちの室内風景ばかりを描いているのだが、いわゆる広角でとらえた室内風景ではなく、柱や階段や天井の一部、下から見上げた照明など、部分を拡大して半抽象化したかたちばかり。しかもその家は西洋風のお屋敷ではなく、1世代前の木造モルタルの典型的な日本家屋……と、こう書いていま気づいたが、彼女の絵には高橋由一の匂いがするのだ。つまり、日本的な風土・環境のなかに油絵を順応させようとする四畳半的座敷わらしの匂いというか。とくに今回は床屋さんの家屋が彼女の描く室内図と近い質感をもっているため、展示場所としてはハマリすぎくらいにハマっていた。

2010/06/11(金)(村田真)

村瀬恭子「遠くの羽音」

会期:2010/04/10~2010/06/13

豊田市美術館[愛知県]

水に浸かる少女を描いた初期の作品から、その少女が森や洞窟へと歩み出すという近作で村瀬恭子の表現の軌跡をたどるとともに、初公開の10点の新作とインスタレーションによって新たな展開も紹介。会場は大型の新作が並ぶ空間に始まり、過去作品へと遡っていくように構成されていた。人物などのモチーフと背景との境界が線ではなくおもに色の面によって表わされる村瀬のペインティング。ときに伸びやかで、ときに荒々しい筆致や、独特の色彩、図と地が溶け合い同化していくような作品世界の不安定な雰囲気の魅力もさることながら、今展でなにより圧巻だったのは、洞窟に見立てた壁画のインスタレーション。黒いカーテンを潜り、真っ暗な空間を数歩進むと、その先にさらに暗幕がある。開けると展示室の三面の壁に鉛筆で描かれたというウォールドローイング《100万年Cave》の空間が出現する。洞窟を彷徨う少女たちと森や山の風景を俯瞰するように描いたこの壁画は、作家が15日間かけて制作したものだという。ほとんどが鉛筆なのだが、花や星の輝き(?)など、ところどころに少しだけ色が使われている。それらは、まるで暗闇の中で見つけたとても遠くの光のように尊く思われて、時間をともなった物語への連想も掻き立てていく。じっくりと眺めているとまるで静かに進行する劇場空間に立っているかのような気分。入ったときは運良く監視員の女性の他に誰もおらず、この空間をしばしひとりで堪能できたのが嬉しい。

2010/06/11(金)(酒井千穂)

ピンホール・フォトフェスティバル2010 in 九州

会期:2010/06/01~2010/06/20

共星の里・黒川INN美術館[福岡県]

京都造形大学教授の鈴鹿芳康を中心に2007年に設立されたピンホール写真芸術学会。やや仰々しい名称だが、要するに写真の原点というべきピンホール(針穴)写真の愛好者が集まって、情報を交換しつつ楽しんでいこうという集まりである。その年一回の総会と展覧会を中心とする「ピンホール・フォトフェスティバル」が、廃校になった小学校の建物を利用してユニークな活動を展開している共星の里・黒川INN美術館(福岡県朝倉市、アート・ディレクターはアメリカから帰国した柳和暢)で開催された。
6月12日のシンポジウム「スローライフとピンホール写真」にパネラーとして参加したのだが、たしかにどんな明るい場所でも数秒から数10秒の露出時間がかかるピンホール写真は「スローライフ」ならぬ「スローフォト」の象徴といえるかもしれない。デジタル化の急速な進行の裏で、ピンホール写真芸術学会の会員もコンスタントに増えて、180名を超えたという。展覧会に出品された会員の作品も、風景あり、人物あり、静物ありとかなり幅広い被写体を扱っており、コラージュ的な画面構成を試みるなど、旺盛な実験意識が見られた。「日本一のホタルの里」という周囲の自然環境も、作品とぴったりシンクロしていたと思う。来年の「ピンホール・フォトフェスティバル」は横浜で開催される予定という。各地の地域密着型のアート・プログラムと連携していくことで、さらに大きな活動の広がりが期待できるのではないだろうか。

2010/06/12(土)(飯沢耕太郎)

塩賀史子 展「彼方の庭」

会期:2010/06/08~2010/06/20

neutron kyoto[京都府]

身近な森や植物など、日常的に訪れる場所や、日頃目にしている光景の一瞬をまるで写し取るかのように描きだす塩賀史子の個展。今年2月に東京で開催された同名の個展と同じコンセプトなのだが、今展で展示された作品はすべて新たに制作されたものだという。木々の隙間を通り抜ける木漏れ日のやわらかな表情と地面に揺れる影の濃淡、椿や蓮の葉に照りつける眩いほどの光など、その描写力にはやはり目が釘付けになってしまう。刻一刻と流れていく時間のなかで、絶えず流転し変化していく世界の果敢ない美しさを、空気や湿度の感触も含めてまるごととらえ、表現しようとする塩賀の制作の姿勢はまるで厳しい職人の修行のようにさえ思える。じっくり見ていると以前の作品の印象とも少し違うことに気がついた。ある風景の中の一場面というよりも、椿や蓮の葉などひとつの植物にクローズアップしたものが多かったせいだろうか。光の反射が強烈なありさまをじっと見ていたら、真夏の射すような暑さとジトッとした空気の匂いまで思い出した。

2010/06/12(土)(酒井千穂)

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