artscapeレビュー

2010年08月01日号のレビュー/プレビュー

TKG Projects ♯2 伊藤彩

会期:2010/06/25~2010/07/10

TKG エディションズ京都[京都府]

サントリーミュージアム[天保山]で開催された「レゾナンス 共鳴」展にピックアップされ、一躍注目を浴びた伊藤彩。作品が持つ、どこか書き割り的なレイヤー状のパースペクティブに興味を持っていたのだが、会場に置かれた資料を見てその謎がやっと判明した。彼女はアトリエで、布地、マケット、ドローイングや写真を切り抜いた立て版古状の小オブジェなどを組み合わせて情景を作り、その情景を撮影した画像を元に作品を描いていたのだ。一見イマジネーションのみで描いたように見える作品が、実は綿密な計算に基づいて描かれていたことを知りビックリした。本展は“思春期男子の部屋”という設定で、絵画と立体によるインスタレーションが展開されていたが、空間の濃密さも「レゾナンス」展より向上しており、小規模ながら見応えのある個展となった。

画像:《妄想くん》2010年 59.4 x 84.3cm oil on canvas

2010/07/06(火)(小吹隆文)

森靖「好きにならずにいられない」

会期:2010/07/03~2010/07/31

山本現代[東京都]

木彫によって巨大な異形の造形を作り出す彫刻家・森靖の個展。『彫刻-労働と不意打ち』展(東京藝術大学美術館、2009年8月8日~8月23日)で発表されていた《Much ado about love-Kappa》(2009)に加え、今回も画廊の空間を埋め尽くさんばかりのスケール感あふれる作品を発表した。河童、龍など神話的なモチーフを、マリリン・モンローや性器など通俗的なイメージと掛け合わせながら彫り出すが、なにしろその大きさとボリュームがよりいっそう極限化されていたのが痛快だ。じっさい、天に昇る龍の口先は天井に突き刺さっており、いっそこのままビルを貫いて駆け上がっていくのではないかとさえ思わせる。ポピュラー音楽の楽曲から採用した展覧会のタイトルも、彫刻の世俗性をうまく言い当てている。

2010/07/06(火)(福住廉)

彼女が消えた浜辺

会期:2010/07/07

京橋テアトル試写室[東京都]

2009年制作のイラン映画の試写会。アスガー・ファルハディ監督作品。カスピ海沿岸のリゾート地で繰り広げられるミステリーで、人間の心理の奥深くを丁寧に浮き彫りにする傑作である。脚本も役者の演技も撮影技術も音楽も、つまり映画のどの側面を見ても、文句のつけようがないほど、すばらしい。善意から生んだ嘘がしだいに自分の首を絞めていき、疑心暗鬼と謎が深まっていく展開は、まるで良質の演劇を見ているようで、最初から最後まで画面から意識が離れることがない。私たちがイランの人びとの暮らしぶりを知る機会は決して多くはないが、中産階級の富の象徴として村上隆によってデザインされたルイ・ヴィトンのバッグ(モノグラム・マルチカラー)が登場しているように、ライフスタイルとしてはほとんど大差ないという事実を垣間見ることができるのも、見どころのひとつ。9月1日より順次ロードショー。

2010/07/07(水)(福住廉)

渡邉博史 写真展 LovePoint

会期:2010/07/07~2010/07/20

銀座ニコンサロン[東京都]

精巧なヒト型ロボットを写したモノクロ写真。曖昧な焦点がドールのアンニュイな表情を際立たせていたようだが、なかにはリアルな少女を同じように撮影した写真も紛れ込ませており、リアルとフィクションの境界を意図的に撹乱していたようだ。

2010/07/07(水)(福住廉)

Trouble in Paradise 生存のエシックス

会期:2010/07/09~2010/08/22

京都国立近代美術館[京都府]

京都市立芸術大学の創立130周年記念事業に協賛して開催された企画展。アートと生命、医療、環境、宇宙などの諸学問が交流する12のプロジェクトを通して、脱領域的な表現(=未来の芸術?)の可能性を問うた。実際、展示物を見ると、光と音の変化が脳の血流に与え、その数値がフィードバックして光と音が変化していくシステムや、二重軸回転する巨大な円盤で身体の感覚を撹乱する装置、切り立った山脈のようなインスタレーション、JAXAとの協働で無重力空間における庭のあり方を探ったプロジェクトなど、およそ美術展らしくない造形物が並んでいる。同時に、多数の講演会、シンポジウム、ワークショップなどが組まれており、展示と同等の比重がかけられているのも本展の特徴である。こういう挑戦心に満ちた企画は、画廊ビジネスでは不可能だし、アートセンターの手にも余る。まさに美術館以外では行なえない先進的な挑戦として評価されるべきであろう。正直に言うと若干アカデミズム臭が気になったのだが、それは筆者の偏見かもしれない。

2010/07/08(木)(小吹隆文)

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