2018年12月01日号
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artscapeレビュー

2010年08月01日号のレビュー/プレビュー

細川護熙 展 市井の山居

会期:2010/04/22~2010/07/19

メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]

元首相・細川護熙の個展。会場を「市井の山居」として見立て、藤森照信の設計による草庵(茶室)を中心に、茶碗や壺、油絵、掛け軸、屏風などを随所にちりばめた。全体的に仏教的な世界観が通底しており、いかにも「和」の趣味性が強く醸し出されているが、どこかでちぐはぐな印象を禁じえないのは、珍妙きわまる油絵がてらいなく展示されているからだろう。この違和感が、稚拙な油彩の技術に由来していることはまちがいない。けれどもあえて深読みすれば、それは期せずして日本の伝統観を正確に反映しているようにも思えなくもない。熊本城や達磨、蓮といった「和」のイメージを、西洋伝来の油絵で描くことは、古来から連綿と継承されてきた伝統というより、むしろ西洋の文化や芸術を取り込みながら絶えず更新してきた伝統の様態を指し示しているからだ。細川があらわにしていたのは、日本の文化の底辺に構造化された、恥ずかしいキッチュである。どうあがいたところで、この宿命から逃れる術は、いまのところ、ない。

2010/06/24(木)(福住廉)

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絵本界の巨匠 モーリス・センダック

会期:2010/06/03~2010/07/13

教文館ナルニアホール[東京都]

《かいじゅうたちのいるところ》で知られる絵本作家、モーリス・センダックの展覧会。展示はリトグラフのほか、映像や絵本などで構成されていた。《まよなかのだいどころ》《わたしたちもジャックもガイもみんなホームレス》など、センダックの絵本で育った者にとっては幼年期に形成された心象風景に改めて直面させられるような気恥ずかしさを覚えてならないが、今回の展示で初めて知ったのは、センダックが他のクリエイターによる絵を積極的に模倣していたということ。ランドルフ・コールデコット、アーサー・ヒューズ、ウィンザー・マッケイ、そしてウォルト・ディズニー。先人たちのなかにセンダックを惹きつける「何か」があり、それを模倣することによって彼自身のなかに眠っているその「何か」を探り当てようとしたのだという。「巨匠」といえども、いやだからこそというべきか、このような模倣(パスティーシュ)と無縁ではなかったという事実は、ポストモダニズム以後も依然としてオリジナリティの神話が根強く残っている芸術の世界を逆に浮き彫りにしている。

2010/06/24(木)(福住廉)

Art Court Frontier 2010 ♯8

会期:2010/06/25~2010/07/24

ARTCOURT Gallery[大阪府]

アーティストやキュレーター、ジャーナリスト、コレクターらが推薦する若手作家たちを紹介するグループ展。回を重ねるごとに作品が多彩になっているが、今回はその傾向が一層顕著だった。養蜂業とアート制作を融合させた埋橋幸弘(今村源推薦)や、マンハッタンにあるロバート・インディアナの彫刻作品『LOVE』の隣でゲリラ的に「愛」一文字のバルーンを膨らませた佐川好弘(江上ゆか推薦)、日常のさまざまな断片を空間にコラージュしてプライベートと創作が融合した世界を作り上げる宮本博史(手塚さや香推薦)はその典型。もちろん、絵画や写真、立体作品などもあり、いずれもハイクオリティな作品だった。また、コミュニケーションを重視した作品が目立ったのも今回の特徴だ。

2010/06/25(金)(小吹隆文)

松本央 個展 vol.1『無常の空間─108人の自画像─』

会期:2010/06/22~2010/07/15

BAMI gallery[京都府]

松本は自画像をテーマにしている若手画家だ。本展の出品作は大学の卒業制作展に出品した大作。108人の自分が京都・三十三間堂の千体千手観音立像と同じ並び方でずらりと描かれている。制作は1人ずつ順に完成させる方法がとられた。1日に1人ずつ完成させるとしても108日かかる計算だ。そのせいか、途中でやけに痩せた自画像があったりする。実際にその時期は痩せていたのか、延々と続く作業に根負けしたのかは定かではないが、そのブレがかえって人間臭さを醸し出しており、好感を持った。

2010/06/30(水)(小吹隆文)

前衛下着道─鴨居洋子とその時代

会期:2010/04/17~2010/07/04

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

下着デザイナー、鴨居洋子(1925-1991)の展覧会。実用的だが美しくはないメリヤス下着から、実用的であり美しくもあるナイロン製の下着へ。本展は鴨居によって革新された下着を中心に、彼女が描いた絵画、岡本太郎によって撮影された下着ショウの写真や細江英公によって撮影された鴨居の人形《大人のおもちゃ》の写真、下着ショウの舞台美術を手掛けたことのある具体美術協会の《具体美術まつり》の記録映像や鴨居みずから監督した映画『女は下着でつくられる』、劇団唐ゼミによって再構成された舞台装置などが一挙に発表され、盛りだくさんの内容でたいへん見応えがあった。なかでも、際立っていたのが犬や猫など動物と自分を描いた油絵。鴨居と動物の強い結びつきを如実に物語っているが、陰鬱で寂寥感にあふれた画面からは、「死」のイメージとともに、鴨居の厭世的な気分が強く伝わってくる。だが、それは鴨居が動物を擬人化した世界の女王として君臨するというより、むしろ動物の世界に救済を求めて動物に寄り添う心理的な弱さを表わしているような気がした。そうした「弱さ」が、時代の先端を力強く切り開いてきた鴨居の前衛精神のなかに同居していたことがおもしろい。

2010/06/30(水)(福住廉)

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