artscapeレビュー

2010年10月01日号のレビュー/プレビュー

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会期:2010/08/28~2010/09/25

ギャラリーノマル[大阪府]

クリエイティブの分野でジャンルの垣根が緩やかになりつつある状況を受けて、画廊ゆかりの6作家(稲垣元則、大西伸明、田中朝子、中川佳宣、永井英男、名和晃平)に「プロダクト」を意識した作品の制作を依頼した。それぞれのスタンスにより作品の傾向はまちまちだが、ドローイングをカレンダー形式で展示した稲垣元則のプランは、日々ドローイングを続ける彼の制作スタイルとジャストフィットしており説得力があった。名和晃平のテレビや携帯電話にガラスビーズを貼り付けた作品は、実用性はともかくオブジェとしては魅力的。永井英男のスクリーンセーバーはそのまま製品化できるクオリティで最もプロダクト寄りのプレゼンだった。しかし、6人のなかで私が最も気に入ったのは田中朝子のルービックキューブ。6つの面に作品イメージが貼り付けられており、揃っても揃わなくても楽しいイメージの遊戯が行える。田中はほかにも「田中フォント」という自筆文字をフォント化した作品を展示しており、こちらも絶妙の出来栄えだった。

2010/08/30(月)(小吹隆文)

田中一村 新たなる全貌

会期:2010/08/21~2010/09/26

千葉市美術館[千葉県]

「孤高の画家」として知られる田中一村の本格的な回顧展。近年新たに発見された作品や資料を含む、250点あまりの作品が一挙に展示された。大量の作品をリズムよく見せる展示構成と、堅実な研究調査によって、じつにみごとな企画展となっていた。一村といえば奄美の自然を描いた絵が代名詞になっているが、生誕の地である栃木、絵を学んだ東京と千葉、そして画業を集大成する地として移り住んだ奄美と、一村が生きた時代に沿った展観を見ていくと、一村の絵が幾度も技法的な転換を遂げていることがわかる。当初の南画から写生への転向、勢いのある筆使いと繊細で緻密な描写、写真から描きおこした肖像画や奄美の自然をとらえたモノクロ写真など、一村の創作活動のふり幅はかなり大きい。ただ、そのなかでも終始一村をとらえて離さなかったものがある。それは、陰への意識だ。中央画壇と決別するきっかけとなったといわれる《秋晴》(1948)や、同じように夕暮れの農村を描いた《黄昏》はともに木々や家屋を逆光のなかでとらえているし、奄美時代の作品にしても、印象深いのは色鮮やかな魚の絵より、むしろ墨で塗りつぶしたパパイヤやソテツの絵だ。このとりつかれたように墨に執着する一村の構えは、おそらく南画時代の粘着的な描線に由来しているとも考えられるが、一村はただたんに墨を好んで用いていたわけではないだろう。墨の暗さがあるからこそ、熱帯の花々の艶かしさや干した大根の乾いた白さが際立っているように、一村は陰と陽を同時にとらえようとしていた。そして、それを多くの画家のように中立的な立場から描くのではなく、あくまでも陰の立場に重心を置いていたところに、一村ならではの特徴がある。陰への強い意識は、光に対して正面から向き合い、それをどうにかして画面に定着させようとする構えの現われにほかならない。

2010/08/31(火)(福住廉)

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瞳の奥の秘密

会期:2010/08/14

TOHOシネマズシャンテほか[東京都]

ファン・ホゼ・カンパネッラ監督によるサスペンス映画。25年前に未解決のままにされた殺人事件を再捜査する物語が、罪と罰、過去の恋愛や友愛などのテーマを織り交ぜながら展開していく。この物語の根底にあるのは、おそらく時間と記憶と忘却だろう。友人を犠牲にしたばかりか真実を追究することもできなかった悔恨、犯人に傷つけられた心の治癒、かつて好意を寄せた女性への断ち切れぬ想い、そして真犯人を裁く正義と復讐。辛く悲しい記憶は一刻も早く忘れるに限るという言い方があるように、時間の流れのなかで、えてしてそうした心の襞はしだいに滑らかに変化していくものだ。けれども、忘れようにも忘れられず、心の根の部分でどうしても凹凸を平らにしがたいこともある。それは決してスマートな姿ではないのかもしれないが、その「変わることができないもの」に拘泥することにこそ、人間ならではの精神的な営みが現れることを、この映画は見事に描ききっている。

2010/09/01(水)(福住廉)

佐々木綾子 展

会期:2010/08/30~2010/09/04

GALERIE SOL[東京都]

スーパーマーケットや職員室など、おびただしいモノであふれる空間を緻密な線で描いた絵。球体がほとんど見られない反面、牛乳パックやファイルケースなど、直角的な物体が大きく前面化しているから、モノとモノが密集した空間を効果的に描いている。にもかかわらず、それほど圧迫感を感じさせないのは、ところどころで空間をあえて歪ませているからだろう。奇妙に歪んだ空間にあふれたモノは、どこかで重力から離れていくような浮遊感すら感じさせる。何かのきっかけでバラバラに解体してしまいそうな脆さを内側に抱えているという点に、偏執的な求心力によって画面を統合する細密画とは異なる、佐々木綾子の特質があるように思う。

2010/09/01(水)(福住廉)

Kodama Gallery Project 24 八木修平“drive”

会期:2010/08/28~2010/10/02

児玉画廊[京都府]

まだ現役の美大生の八木が、注目の若手作家としてピックアップされた。主にアクリル絵具で描かれた絵画は、さまざまな技法や手法が駆使されて非常に複雑な画面を形成している。にも関わらず、混沌とするどころかむしろ透明感があり、豊穣な世界を描き出していた。テーマは自動車でドライブしている時などに得られる疾走感や爽快感をビジュアライズすることらしい。筆者自身は作品を見て特段の爽快感を得た訳ではないが、目まいを起こしそうな幻惑的な画面と、それを破たんせずに構築した作家の技量には驚かざるをえない。将来有望な新人と断言しておこう。

2010/09/02(木)(小吹隆文)

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