artscapeレビュー

2010年10月01日号のレビュー/プレビュー

宇山聡範 写真展 LAND

会期:2010/09/06~2010/09/18

Port Gallery T[大阪府]

旅先で見つけた風景を4×5の大判フィルムで撮影した写真作品。畑を撮った作品が1点あるが、ほかは荒野のような世界だ。ただし、実際は荒野でも有名な観光地でもないという。ありふれた土地に“どこでもない風景”を見出したら、それを素直に撮影するそうだ。フォーカスが作品の一部に当たっているのも、自分の目線や何かを感受した地点を明確にするためである。地平線を高めにとった構図と大きく引き伸ばしたサイズが功を奏して、見応えのある作品に仕上がった。初個展としては大成功であろう。

2010/09/06(月)(小吹隆文)

滝本ユサ─2010─Pastart展

会期:2010/09/07~2010/09/12

ギャラリー北野坂[兵庫県]

薄い色調の線を並べ帯状にして、それらを複数重ね合わせて幾何学的な形態をつくり出した版画作品。本人は細い線をパスタに見立てており、それゆえ「pastart」という造語を展覧会タイトルに掲げている。線には若干の歪みがあり、並べ方も時折ズレをつくってアクセントをつけている。まるで音符が整然と並んだ楽譜を見ているようだ。作品から漂うクールなリズム感が心地よい。

2010/09/09(木)(小吹隆文)

藤本英明 展

会期:2010/08/28~2010/09/10

ギャラリーヤマキファインアート[兵庫県]

兵庫県出身で、現在は沖縄を拠点に活動している藤本英明の関西初個展。その作品は、パネルにアクリル絵具を何層も塗り重ね、表面をサンドペーパーで削り出してイメージを浮かび上がらせるというもの。通常のペインティングでは得られない独特の質感があり、古い写真を見た時のような人の記憶をくすぐるニュアンスがある。特に逆光の情景は画面に光が満ち溢れており、非常に美しかった。

2010/09/09(木)(小吹隆文)

群馬青年ビエンナーレ2010

会期:2010/07/31~2010/10/11

群馬県立近代美術館[群馬県]

今回で10回目の群馬青年ビエンナーレ。16歳から29歳までを対象とした公募展で、若いアーティストの登竜門として定着して久しい。今回は審査員を美術家の伊藤存、東京都写真美術館事業企画課長の笠原美智子、インディペンデント・キュレイターの加藤義夫、同じく窪田研二、美術家の鴻池朋子の5名が務め、792人(組)から応募された1119点の作品から52人(組)による53点の作品が入選して、展示された。実際に展観を見てすぐに気づくのは、突出した作品が皆無であること、そして小粒の作品が均等に選ばれているように見えるということだ。例えば絵画の場合、細かく描きこんだ細密画や筆跡を残した厚塗りの絵画、傷つきやすく繊細な内面を吐露したナイーブな絵画など、昨今の多様な絵画の動向を確実におさえた出品構成となっている。それが審査員の総意による結果なのか、あるいは応募作に見られる一般的な傾向なのかはわからない。けれども、見る側の立場からいえば、公募展といえども、現在の動向を反映したカタログ的な展覧会を見ることは端から期待していないし、どうせ見るのであれば、ほかでは見られない非凡な作品と出会いたいものだ。凡庸な公募展が必要でないとは思わないが、地方都市という条件を考えると、もう少し特徴を際立たせるための工夫を凝らすことがあってもいいように思う。(その是非はともかく)VOCA展のように審査基準をあえて極端に偏らせたり、山口県展のように審査そのものを公開したり、できることはまだあるはずだ。

2010/09/11(土)(福住廉)

白川昌生 展 まえばし妄想2010年

会期:2010/09/10~2010/09/16

ノイエス朝日[群馬県]

美術家・白川昌生の個展。白川が活動の拠点としている前橋の街をモチーフとした平面作品を発表した。大きな布に描かれたのは、白川の想像力によって彩られた前橋の都市風景。他の地方都市と同じように、前橋もまた、巨大なショッピングモールの出現によってシャッター通りと化した商店街、駅前の商業施設ですら撤退を余儀なくされる厳しい経済状況にさらされている。白川の妄想は、そうした過酷な現実に対する批判的な提案である。もちろん、それが前橋に詳しくない者には通じにくいという難点は否めない。けれども、白川自身が語っているように、あらゆるアート作品は、その初発においてローカルなものだったはずであり、それはセザンヌであろうと写楽であろうと変わりはない。作品の普遍性はあくまでも事後的に付け加えられるのであって、それは作品の本質というよりその制度的・言説的な一面にすぎない。白川の批判的な提案は、つねに私たちの視界の根底を深くえぐり出すが、ローカリズムこそアートの出発点だという知見は、新しい芸術の提案というより、むしろ原点回帰の提唱であり、地方のアーティストばかりか、東京のアーティストにとっても大きな刺激となるにちがいない。アートとは現実をちがった角度から見せる技術である。

2010/09/11(土)(福住廉)

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