artscapeレビュー

2010年10月01日号のレビュー/プレビュー

寺井絢香 展

会期:2010/09/13~2010/09/18

ギャルリー東京ユマニテ[東京都]

縦長の紙に鉛筆で描いた野菜や消耗品などの絵。部分的に色鉛筆を用いているようだが、基本的にはモノクロームで、キウイやメロンパン、鍵などをそれぞれの質感を一つひとつ丁寧に描き出している。それらがほぼ等間隔に立ち並んだ光景は壮観だが、手前から奥に向って拡がりのある構図と、ほとんど同じ大きさの支持体のおかげだろうか、展示の空間全体に生まれた奇妙なリズムが心地よい。会場の中央に立つと、まるでおびただしいモノが流れ込む滝壺にはまり込んでしまったかのようだ。紙と鉛筆という単純な道具で豊かな世界を創り出す、アートならではの魅力を存分に発揮した展観だった。

2010/09/15(水)(福住廉)

獄中画の世界 25人のアウトサイダーアート展

会期:2010/09/10~2010/09/19

Gallery TEN[東京都]

「獄中画」とは牢獄で描かれた絵画のこと。帝銀事件の故平沢貞通をはじめ、元連合赤軍の重信房子や愛犬家殺人事件の風間博子、さらには映画監督の足立正生や匿名の獄中者など、25人による40点あまりの獄中画が展示された。使用できる画材が限定されているせいか、ボールペンだけで緻密に描きこんだ作品が多いが、モチーフは風景や動物、仏像など幅広い。企画者が「アウトサイダーアート」として位置づけているように、展示された獄中画は高度な技術を駆使しているわけではないし、美術史の先端に居場所を求める貪欲さとも無縁であり、描くことの純粋さにおいては、どんな著名な絵描きよりも勝っているといえる。ただ、逆にいえば、その純粋性は獄中で描かれたというサブ・ストーリーに大きく依存しているわけで、実際自由への渇望や死刑の恐怖を感じさせる絵には、獄中者の内面と描かれたモチーフがあまりにも直線的に結ばれているがゆえに、不自由な獄中で自らを内省しながら描いたという獄中画の物語に回収されてしまっているように思えた。しかし、そうしたクリシェを免れる絵がなかったわけではない。それが、元連合赤軍、永田洋子の絵だ。マンガのような描線で獄舎の日常を描いた絵にあるのは、獄中で暮らす自らを徹底して見つめるリアリズム。そこには、多くの獄中者が不自由な獄舎から自由な外界を夢見るのとは対照的に、いまある不自由さを直視する冷徹なまなざしが一貫している。柔らかな描線で子どものようなキャラクターを描いているだけに、その冷たく硬い意思がよりいっそう際立ち、恐ろしく感じられるといってもいい。「獄中画」というジャンルに内蔵された定型的な物語を撹乱しているという点で、永田洋子の絵は評価したい。

2010/09/15(水)(福住廉)

六甲ミーツ・アート「芸術散歩2010」

会期:2010/09/18~2010/11/23

六甲ガーデンテラス、六甲山カンツリーハウス、六甲高山植物園、オルゴールミュージアム ホール・オブ・ホールズ六甲、自然体感展望台 六甲枝垂れ、六甲ケーブル(駅舎、車両内)、六甲山展覧台[兵庫県]

都会に隣接した豊かな自然環境であり、阪神間の在住者には身近なレジャースポットでもある六甲山。アートを触媒にしてその魅力を再確認してもらうと開催されたのが、この「六甲ミーツ・アート『芸術散歩2010』」だ。出品作家は国内外の41組。山頂の風を利用した藤江竜太郎のオブジェ群《Red or White》(公募部門で大賞を受賞)や、山頂から平野に向けて大声を叫んでもらうよう設置された西村正徳の《メガメガホン=オオゴエのフキダシ》など牧歌的なものから、植物園のガラス室をまるごと使用した太田三郎の《六甲山ハウス》、蓑虫そっくりのコスチュームに身を包んで木の枝に吊り下げられながらツイッターに書き込み続ける角野晃司の《蓑虫なう》など周辺の環境に溶け込んだ作品まで、実に多彩だった。しかし、それら作品を見ながらも一番記憶に残るのは、六甲山の自然や谷をわたる風、山上から見下ろす雄大な景観である。アートと自然が仲良く共存し、最終的に六甲山の魅力を再確認してもらうという主催者の意図は見事に果たされた。なお、山頂へは自動車でも行けるが、企画の趣旨を尊重して、電車、バス、ケーブルカーを乗り継いで出かけることをおすすめしたい。7つの会場のうち六甲ケーブル六甲山上駅以外は隣接しているが、山だけにアップダウンが思いのほか激しい。運動不足の身には少々応えるので、その点あらかじめご注意を。

2010/09/18(土)(小吹隆文)

プレビュー:梅佳代 写真展 ウメップ

会期:2010/10/02~2010/10/15

HEP HALL[大阪府]

ギミックなしの天然パワーで見る人すべてを笑顔に変える梅佳代の写真。それは一見キワモノに見えて、実は「決定的瞬間」(by カルティエ=ブレッソン)の正しい後継者と言えよう。大阪では3年ぶりに開催される彼女の個展を前に余計な理屈は要らない。ストレートな写真をストレートに受け止めて、明日を生きるエネルギーを充填しよう。最新写真集『ウメップ』に掲載された作品に加え、2010年に撮影したスナップ約1,500点を時系列に展示。さらに大型プリント、等身大パネル、映像、ドローイングなど、約1,700点のてんこ盛りでお届けする。

2010/09/20(月)(小吹隆文)

プレビュー:Hoi!「生活とデザインの接点を探る」オランダデザイン展

会期:2010/10/02~2010/11/07

PANTALOON、BY PANTALOON、graf、Toi、space_inframance[大阪府]

コンセプチャルな思考と実用性を絶妙のバランスで実現させているオランダ・デザインのエッセンスを探るべく、同地で活動している5組のデザイナー、アーティスト、教育機関を招聘。建築、グラフィック、食、プロダクト、匂いといった広範なテーマについて、展示、ワークショップ、レクチャーを行う。会場はオーソドックスなギャラリーではなく、デザインスタジオとギャラリーを併設するスペース、ファッションを中心としたセレクトショップ、基礎化粧品や生活関連商品を扱うショップと、出品作家に劣らずユニーク。会期中は大阪市内に点在する5会場を行き来する人たちの姿が目につきそうだ。

2010/09/20(月)(小吹隆文)

2010年10月01日号の
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