artscapeレビュー

2010年10月15日号のレビュー/プレビュー

彦坂尚嘉 個展「ヒストリー・レッスン/皇居美術館」

会期:2010/09/03~2010/09/14

マキイマサルファインアーツ[東京都]

1968年の人情劇場公演(作・演出:堀浩哉)チラシ(10万円)から、「フロアイヴェント」の記録写真、懐かしの「ウッド・ペインティング」、天皇を京都に送り出して皇居を美術館にしてしまおうという「皇居美術館」のマケット(?)まで、自作も含めてあらゆるものを相対化し、批評の対象にしてしまう彦坂のエキセントリックな回顧展。

2010/09/11(土)(村田真)

未来は僕らの手の中

会期:2010/09/06~2010/09/18

Oギャラリーeyes[大阪府]

上村亮太、タイテツヤ、田岡和也、西村正幸、森田麻祐子、成山亜衣、東邦フランチェスカという、世代も表現もさまざまなアーティストによって構成されたグループ展は同名のタイトルの歌があったのを思い出した。人口問題、環境汚染、貧困や自殺など、深刻な問題をそれぞれの国や社会、個人が抱えるなか、これからの未来に各作家が何を思い描き、展望するのかをテーマに2週にわたって開催された。森田は、これまでも絶滅危惧種とされる動物をその作品のモチーフにしてきた。今展では、森の風景が描かれたマグネットシートの画面に、マグネットのアムールトラや、その餌食となるノロジカのモチーフを配置したユニークな形態の作品を発表。森田作品特有のソフトな雰囲気と色彩が奇麗で、一見その危機に瀕する動物の深刻な状況には想像が及ばなそうな印象もあるが、それらの生息環境と食物連鎖の関係の移り変わりを示すそのユニークな展示は、むしろ見る者とのあいだにコミュニケーションをうながす要素が強く、手法としても興味深く感じた。小学生の頃に思い描いていた未来のイメージと、その頃、日々テレビで報道されていた社会問題の混沌としたリアルなイメージをアクリル絵の具で表現した田岡和也は、今展の出品者のなかでも若い作家だが父親でもある。自分の子どもが生まれてからは特に自分が幼少時に抱いていた未来や外の世界のイメージを思い起こすと語ってくれた。それぞれの作家の真摯なメッセージがうかがえる展示だが、どの作品も悲観に終わらない批評性と同時に美しさを併せもつ絵画で、ゆっくりと堪能した。

2010/09/11(土)(酒井千穂)

軽い人たち 木内貴志/高須健市/中村協子/吉田周平

会期:2010/09/06~2010/09/25

ギャラリーwks.[京都府]

木内貴志、高須健市、中村協子、吉田周平の4人によるグループ展。それぞれの作家の理知に富んだセンスや言葉あそびが発揮されていて痛快だった。黒いカンフースーツに身を包んだ人物の太極拳の動作を、連続した絵と言葉で解説する中村協子の一連のドローイングは、描写が細かいので至近距離で見ることに集中してしまうが、少し離れて全体を見渡すと絵巻物のような面白さとリズム感で全体的に楽譜のような美しさもある。動作の緩急をとらえる観察力と丁寧な描写が中村らしい。木内貴志の《O○ O》は、“POP“という言葉の二つのPをデジタル画像のモザイク処理のイメージでドットで描いた大きなパネル。一壁面を占拠するその存在感がすごいのだが、近づいてみると彩色やその仕上げに荒さはない。吉田周平の映像作品は視覚の記憶や感覚のズレに注目した視点が面白いのだが、モニタの設置位置や、映像の淡々とした流れなど、この展覧会のなかでは集中しづらい印象があり、ややもったいない気がした。個人的には、雑誌や絵本などの印刷物のベージを、一部分だけを残してすべてマジックペンで真っ黒に塗りつぶした(だけの)高須健市の作品が気に入った。例えば『ウォーリーをさがせ』は“ウォーリー”だけが塗り残されている。地味なのだが、雑誌などのピックアップはかなりユニークでその毒は強烈だ。一見、全体的には品を無視した笑いに覆われているようにも思うが、じっくりと見ていくと「軽い人たち」出品メンバーの繊細で生真面目なキャラクターがうかがえるのが好感がもてる展覧会でもあった。

2010/09/11(土)(酒井千穂)

田中幹 展

会期:2010/09/10~2010/09/25

乙画廊[大阪府]

0という数字にこだわり、以前から、数字の0の小さなゴムスタンプを延々と反復押印した手法の作品を発表している田中幹の個展。小さなギャラリーの扉を開けると、スペースの壁面に収まりきらないほどの大きな作品が視界に飛び込んでくる。キャンバスには、無数の「0」のスタンプが油絵の具で押印されているのだが、あまりにもびっしりと重なり、画面全体に緩やかにグラデーションをつくっているので、ぱっと見ただけではどのような状態なのかわからなかった。近づいてよくみるとその夥しい数が確認できて驚く。絵の具で押されたスタンプは、少しずつ重なり、それぞれの境界線をつぶしながらつながって、0の形が消失していく。絵の具の重なりで表面はぼこぼこと盛り上がっているのだが、スタンプの0の集積がただ一色の色へと移っていくその有様は虫の大群かなにかが蠢めいているかのような迫力。今展では何層もの樹脂の層の中に無数の0を閉じ込めたような新作も発表された。長方形や円形などいくつかの形状のこの作品は、樹脂の層ごとにスタンプを押印するという作業の繰り返しでつくられているそうで、立体的な作品だ。表面から樹脂の層の奥へと視線が誘われて目が釘付けになっていく。空間的な奥行きに時間を取り込み、無限の広がりを感じさせるミニマルな作品は宗教的な深みも感じるのが興味深い。次回以降の展開も楽しみだ。

2010/09/11(土)(酒井千穂)

清水寛子 展

会期:2010/09/11~2010/09/12

長者町アートプラネット[東京都]

横浜の関内駅をはさんだ両側で開かれる「関内外OPEN!」に合わせた企画。長者町アートプラネット(CHAP)は伊勢佐木町の近くのビルを改装したアートスペースで、今回は暫定オープン。清水は影絵のアニメーションと実物を組み合わせたインスタレーションを見せている。おもしろいのは本の上からアニメを投影した作品。ページをめくるのに合わせてイメージも動いていく仕掛けで、アニメの原点であるパラパラマンガを思い出させる。

2010/09/12(日)(村田真)

2010年10月15日号の
artscapeレビュー