artscapeレビュー

2010年11月15日号のレビュー/プレビュー

あいちトリエンナーレ2010

会期:2010/08/21~2010/10/31

愛知県美術館、名古屋市美術館ほか[愛知県]

コンペの審査が予定より早く終わったので、トリエンナーレを見る。愛知県美術館にも内覧会のときにいくつか見逃していた作品があったが、今回見たかったのは納屋橋会場のヤン・フードンの作品。ボウリング場として使われていた広い空間に十数台の時代がかったフィルム映写機を置き、四方の壁に映画を映し出すというインスタレーションだ。映像はアクションものや恋愛系のモノクロ映画で、既存のフィルムなのか作者が撮ったものなのか知らないが、いずれにせよ断片的なシーンを繰り返す。客席がないので観客は立ったり座ったり、隣の壁に移動したりしながら勝手に見ている。なにか野外上映会みたいな雰囲気で、映写機の音や熱までもノスタルジックに感じられる。映画の内容も上映形式も、国際展にありがちな映像作品の対極を行こうとしているようだ。

2010/10/03(日)(村田真)

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花岡伸宏「ピンセットの刺さった円柱の飯は木彫りの台を貫通する」

会期:2010/09/21~2010/10/03

ギャラリー恵風[京都府]

米粒の塊の円柱が木彫の少女像の台座を貫通しているという個展のタイトルそのままの立体作品が強烈。ほかに壁面を埋め尽くすように貼られたコラージュ作品、少年時代の作家自身や家族のスナップ写真をつないだ映像作品も発表されていた。コラージュされたそれらの要素の多くは、記憶や象徴するもののイメージを喚起して想像をかき立てるのだが、すべてをつなぎ合わせて物語を連想することは難しい。想像すればするほど意味がわからないものになっていく。なのに作品を見ているとにやっと笑いがこみ上げてくるのは、脈絡のないモチーフの組み合わせとタイトルが絶妙に響き合うイメージで、シュールなマンガのように、新たな連想を誘うせいかもしれない。どこかおどけた花岡の表現の雰囲気は、すぐになにか意味を読み取ろうとしたり、常識にとらわれるこちらの感覚を嘲笑っているかのようにも思えるのだが、しかしちっとも嫌悪感はない。不条理な世界でありながら、痛快な印象なのが不思議だ。

2010/10/03(日)(酒井千穂)

佐川好弘「動と悩 why」

会期:2010/09/28~2010/10/03

ギャラリーはねうさぎ room2[京都府]

過去に行なわれたプロジェクトの紹介と新作を交えて、佐川の活動を紹介する個展。訪れたときは、ちょうど野外でのパフォーマンスが始まったところだった。赤い「愛」の文字の巨大なバルーンが、通りの向こう側のコンビニの駐車場で徐々に膨らんでいくのが2階のギャラリースペースからも見える。通りすがりの人たちが立ち止まり、その様子を眺めながら作家に話しかけていたり、女子高生らが歓声をあげて写真を撮っていたりする様子が微笑ましかったが、佐川の活動がまさに真骨頂を発揮する場面を目にして興奮した。文字通り、作り手と受け手をつなぐ「愛」は強力だった。

2010/10/03(日)(酒井千穂)

ラヴズ・ボディ──生と性を巡る表現

会期:2010/10/02~2010/12/05

東京都写真美術館 2階展示室[東京都]

いい展覧会だった。「ラヴズ・ボディ」という展覧会は1998年にも開催されていて、この時は「ヌードの近現代」がサブタイトルであり、「調和のとれた美しい女性の身体を男性のエロスや性幻想の表象として描く従来のヌードを批判的に検証する」展示だった。今回はその続編というよりは、「エイズを巡る問題提起」をテーマとする作品に視点が絞られている。両方とも笠原美智子のキュレーションによるものだが、10年あまりの時間を経て、明らかに今回の「ラヴズ・ボディ」展の方が引き締まった、密度の濃いものになっている。キュレーターの成長の証しが刻みつけられているともいえそうだ。
展示作家はAAブロンソン、ハスラー・アキラ/張由紀夫、フェリックス・ゴンザレス=トレス、エルヴェ・ギベール、スニル・グプタ、ピーター・フジャー、デヴィッド・ヴォイナロヴィッチ、ウィリアム・ヤンの8人。このうち、ゴンザレス=トレス、ギベール、フジャー、ヴォイナロヴィッチが、既に死去していることからも、1980年代~90年代にかけて、エイズがアート・シーンにも猛威をふるい、「生と性」を巡るぎりぎりの表現行為に集中することをアーティストたちに強いたことがわかる。現在、エイズは治療法の発達によって致死性ではなくなったものの、病の日常化というまた別の問題をもたらしつつあると思う。そのあたりに目を向けた、ハスラー・アキラ/張由紀夫の軽やかに弾むような、映像と人形による作品が選ばれているのがよかった。また、インドにおけるゲイ・カルチャーという、これまではタブーだった状況を撮影したスニル・グプタの「マルホトラのパーティ」のシリーズは、このような企画でしか紹介できない作品だろう。
おそらく観客動員はあまり期待できないと思う。だが、こういう地味だが志の高い展覧会をしっかりと実現していくことが、東京都写真美術館への信頼感を高めることにつながっていくのではないだろうか。

2010/10/03(日)(飯沢耕太郎)

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M-ポリフォニー2010-鏡花水月-

会期:2010/10/04~2010/10/09

東京造形大学ZOKEIギャラリー[東京都]

大学の事務室に母袋俊也教授から展覧会の案内状が託されていたので、授業のあと見に行く。大学院生11人の絵画を中心とする展示。母袋教授は案内状のなかで「そもそも〈絵画〉は本質的に懐疑性を内包している」と、昨今のナイーブで楽天的な「小さな物語」たちを牽制している。その教えにしたがったのか、みずから制約を科しつつ制作を展開している八重樫ゆいの絵画は、けっして見た目に美しいとはいえないけれど、コリッとした反骨精神が感じられ好感がもてた。

2010/10/04(月)(村田真)

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