artscapeレビュー

2011年01月15日号のレビュー/プレビュー

プライマリー・フィールドII

会期:2010/12/04~2011/01/23

神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]

BankARTスクールの「美術館ツアー」番外編で、元受講生のステキなおねえさまたちと訪れる葉山の旅。3年前の「プライマリー・フィールド」展に続く第2弾で、前回が80年代に登場した作家が中心だったのに対し、今回は少し若返って、高橋信行、小西真奈、保坂毅、三輪美津子、東島毅、伊藤存、児玉靖枝と90年代以降に活躍する作家たちが中心。また、前回は立体が圧倒的に多かったが、今回は逆にほとんどが(レリーフや刺繍も含めればすべて)絵画で、しかも具象イメージを用いる作家が多いのが特徴だ。興味を惹かれたのは、最初の部屋のなかば抽象化されたフラットな高橋信行の絵から、筆跡を残しつつ風景写真に基づいて描く小西真奈の部屋に移動したときに、ある種の安心感を覚えたこと。これはなんだろう。抽象化されているとはいえ高橋の絵にはまだ具象イメージが残っているから、具象と抽象の違いではないし、また、フラットとはいえ筆跡も認められるので手の痕跡の有無でもない。たぶんこれは絵の持つ情報量の違いではないかしら。高橋の絵は色彩も形態も整理されているため、見る者は深く考えずに次に進んでしまうが、小西の絵は具体的に細かく描かれているためつい見入ってしまい、滞在時間も長めになるのだ。もちろんそれは高橋の絵の欠点ではなく、次から次へと作品を見ていかなければならないグループ展のトップバッターの宿命ともいえるもの。ちなみに、小西の次には抽象レリーフの保坂が続き、その次が写真的リアリズムを中心とした三輪で、その次が抽象の大作を出した東島……と続いている。試みに、最後にもういちど高橋の部屋に戻ったら、さきほどよりずっと興味深く見ることができた。キュレーションの妙味であり、グループ展の魔力である。

2010/12/05(日)(村田真)

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山口蓬春と安田靫彦

会期:2010/10/16~2010/12/23

山口蓬春記念館[神奈川県]

神奈川県立近代美術館から歩いて5分の地にあるのにこれまで行ったことがなかったが、今日はステキなおねえさまたちとご一緒させていただいているので、ちょっとのぞいてみることに。小高い山の中腹に建つ建物は、蓬春が晩年をすごした住居を改装したもの。手入れの行き届いた広い庭に、ただ公開しておくだけではもったいない画室(若手作家に貸して公開制作してもらうとか)、窓から相模湾を一望にする眺め……。おっと葉山のご用邸が見えるではないか。やっぱ皇居新宮殿をその絵で飾っただけのことはあるわい。

2010/12/05(日)(村田真)

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リコンストラクション ラ・アルヘンチーナ頌

会期:2010/12/05

BankART Studio NYK[神奈川県]

大野一雄の代表作《ラ・アルヘンチーナ頌》を、及川廣信や森村泰昌ら4人のダンサーとアーティストがそれぞれ再構築する試み。注目はもちろん森村だ。大野らしい衣装とメイクで舞台に出てピアノを弾き、映像を流す。なんて器用なアーティストだろう。だけど一番感動したのは最後に出たKENTARO!!のダンス。大野とは対照的にすばやく踊りまくるトリッキーな動きに、目は釘づけ。

2010/12/05(日)(村田真)

原芳市「光あるうちに」

会期:2010/11/23~2011/12/05

サードディストリクトギャラリー[東京都]

原芳市に『淑女録』(晩聲社、1983年)という写真集がある。サードディストリクトギャラリ─の展示を見て帰ったあとで、ひさびさに本棚から引っぱり出してみた。4×5判の大判カメラで、ストリッパーやSMモデルからOLまで、女性のモデルたちと正面から対峙し続けた渾身の力作である。まだ30代後半の原は、「淑女たちを一人ひとりこちら側に引き寄せて写真にしていくしかない」と思い詰め、「一種病的と思われても仕方のないそうした不思議なエネルギー」を全開にして被写体に向き合っている。
それから30年近くが過ぎ、還暦を過ぎた彼の新作展を見ることができた。肩の力が抜けた、柔らかに6×6判のカメラの前の情景に浸透していくような眼差しのあり方は、かつての原の写真を知る者には物足りなく感じるかもしれない。だが彼の生と写真とが、水に濡れた薄紙一枚でぴったりと貼り合わされているような展示を見ているうちに、「これでいいのではないか」という思いが強く湧き上がってきた。「光あるうちに」というタイトルは、トルストイの小説『光あるうちに光の中を歩め』を思わせるが、原は15年ほど前に知らずにこのタイトルを思いついていた。後になって、古本屋の書棚で文庫本の背文字を見て、「ぼくの問いに対する解答がトルストイに与えられているような衝撃」を感じたのだという。
自問自答をくり返しながら、「光あるうちに」という切迫した思いを抱きつつ写真を撮り続けていく彼の生き方が、ウサギやトンボやカラスや路傍の花のような、まさに光の中で震え揺らめく小さな生きものたちの姿に投影されている。しっとりと味が沁みた煮物のような、いい写真展だった。

2010/12/05(日)(飯沢耕太郎)

広瀬勉「鳥渡(チョット)・3」

会期:2010/12/03~2011/12/09

M2ギャラリー[東京都]

広瀬勉もキャリアの長い写真家である。彼は1980年代から「型録」という個人写真雑誌を刊行し、同名の写真展を開催し続けてきた。今回M2ギャラリーで開催された「鳥渡(チョット)・3」は、39回目の「型録写真展」になる。
以前は手当り次第に被写体を みとっては、そこら中に撒き散らしたような、コントラストの強い荒っぽいスナップが並んでいたような記憶がある。その雑然とした印象は変わらないのだが、濃いグレートーンがじわじわと目に食い込んでくる写真を眺めているうちに、奇妙な感動を覚えた。広瀬もまた原芳市と同様に、自らの生の起伏と写真を撮影する行為とをできうる限り同調させようとしている。つながっている二匹の犬、不可思議な動作をしている路傍の人物、広瀬の代名詞というべき穴あきブロック塀(彼には『塀帳』というブロック塀の写真集もある)などの写真の合間に、女性のヌードや下着姿のポートレートが挟み込まれる。そのたたずまいが、何ともエロティックで心揺さぶるものがあるのだ。40回近い写真展をくり返しているうちに、彼の写真の表現力の水位が相当に高まってきているということだろう。
原芳市も広瀬勉も、主に写真家たちが自分たちでスペースを借りてギャラリーを運営する「自主運営ギャラリー」での展示を積み重ねて、表現を成熟させてきた。写真家たちの自由な発表の場としての「自主運営ギャラリー」が果たしてきた役割の大きさを、もう一度きちんと評価するべきだと思う。

2010/12/05(日)(飯沢耕太郎)

2011年01月15日号の
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