artscapeレビュー

2011年01月15日号のレビュー/プレビュー

林田摂子・福山えみ「森をさがす/月がついてくる」トークショー

会期:2010/12/10

TOTEM POLE PHOTO GALLERY[東京都]

2010年8月に『森をさがす』(ROCKET BOOK/CAP)を刊行した林田摂子と12月に『月がついてくる』(冬青社)を出版したばかりの福山えみ。どちらもファースト写真集が出て、これからの活動が期待される。そんな二人の写真家が、東京・四谷のトーテムポールギャラリーで連続展(林田展12月7日~12日、福山展12月14日~19日)を開催した。それにあわせてギャラリーと出版社を経営している冬青社代表の高橋国博氏と僕が加わって、トークショーがおこなわれた。
フィンランドを舞台にして、静かな、だがどこか切迫した緊張感がある「物語」が展開する『森をさがす』と、遮蔽物の隙間から向こう側を覗いているような、奇妙な味わいのモノクロームの光景が並ぶ『月がついてくる』。両方ともクオリティの高い写真集だが、内容的にはそれほど共通性はない。だが林田も福山も、ある意味頑固に、自分の見方、作品の構築のスタイルにこだわっている。それと、イマジネーションのふくらみを感じさせるタイトルを見てもわかるように、二人とも言語能力がかなり高い。高橋氏から、北井一夫が提案した作品の順番を、福山がまったく無視して変えてしまった話などが暴露されて、会場は大いに盛り上がった。また、林田が東京綜合写真専門学校時代に、鈴木清の「最後の教え子」だったという話も興味深かった。林田も鈴木清と同様に、本番前にダミー写真集を何冊も作っている。最終的な写真構成、レイアウトを決定するまで、粘り強く、ダミーを作りながら持って行くプロセスは、師匠譲りといえるのではないだろうか。
二人とも、次作がどんなふうに変わっていくのかが、楽しみでもあり、心配でもある。守りに入ることなく、意欲的に新たな領域にチャレンジしていってほしい。

2010/12/10(金)(飯沢耕太郎)

マンガ・ミーツ・ルーヴル

会期:2010/12/06~2010/12/17

BankART Studio NYK[神奈川県]

ルーヴル美術館をテーマにしたマンガ(フランスでは「バンド・デシネ」と呼ぶらしい)の原画展。出品は5人で、日本でも『氷河期』として訳本が出ているニコラ・ド・クレシーや荒木飛呂彦も含まれている。驚くのは、ルーヴル美術館みずからが出版社とともにこれを企画したこと。それだけフランスではマンガの地位が高いのだ。日本ではこうはいくまい。というか、逆に日本の美術館は動員数を稼ぐためにマンガの力を借りているくらいだ。美術館がマンガを力づけるフランスと、美術館がマンガに助けられる日本という構図。この展覧会も2週間たらずの会期なのにBankART始まって以来の記録的な動員だったという。

2010/12/11(土)(村田真)

吉村芳生 展──とがった鉛筆で日々をうつしつづける私

会期:2010/10/27~2010/12/12

山口県立美術館[山口県]

吉村芳生が大勝利を収めた。彼が現在制作の拠点としている山口県で催した大規模な個展は、70年代より継続しているこれまでの制作活動を振り返ると同時に、最新作によってこれからの展望も予感させる、すぐれて充実した展観だった。「六本木クロッシング2007」で大きな衝撃を与えたように、吉村芳生といえば、フェンスの網の目や自分の顔、新聞紙など、自分の眼に映る、きわめて凡庸な日常を、鉛筆や色鉛筆など、これまた凡庸な画材によって、ただ忠実に描き写す作風で知られているが、今回の個展では、その愚直な写生画の数々が披露されたのはもちろん、最新作ではその方向性が以前にも増して極限化していた。河原の草花を描いた《未知なる世界からの視点》は、横幅が10メートルにも及ぶ大作。草の緑と花の黄色が鮮やかな対比を構成しているが、川面に映るその光景も描き出しているので、上下で分けられたシンメトリックな構図が実像と虚像の関係を強調していた。ただし、注意深く見てみると、川面に見えたのは実像で、実像に見えたのは虚像であることに気づかされる。つまり吉村はこの作品を上下を反転させて展示していたのだった。吉村が、そして私たちが見ているのは、実像なのか、それともその反映にすぎない虚像なのか。そもそも双方はどのように峻別できるのか、実像が虚像でない根拠はどこにあるのか、すなわち私たちは何を見ているのか。吉村芳生の視線は、事物を眼に見えるままに描き出す写生画の方法論を踏襲しながらも、それよりもはるかに深いところに到達している。それを大勝利と呼ばずして、何と呼ぶというのか。

2010/12/11(土)(福住廉)

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塩田正幸 “SFACE” “DNA(Dirty Npeaker All)”

会期:2010/12/11~2011/01/30

G/P GALLERY[東京都]

塩田正幸の名前は以前からよく目にしていたのだが、最近になってその仕事の面白さがようやく見えてきた。最初に注目したのは2008年の写真集『ANIMAL SPORTS PUZZLE』(TOKYO CULTUART)で、子どものいたずらのように組み合わされたカラフルなオブジェの集合体を撮影したものだ。そのでたらめとも思える発想の方向性や瞬発力が日本の同世代の写真家たちとは違っているように感じた。聞くところでは、ノイズ系のミュージシャンとしても活動しているということで、そのあたりの刺激に全身でさっと反応していく感覚が、写真にも独特のリズムを生んでいるのだろう。
3年ぶりという今回の個展でも、あまり一つの方向に収束していくことなく、ノイズを撒き散らしていくような彼のスタイルがよくあらわれていた。巨大なモノクローム・コピーのポートレート、ライトペンで一筆書きしたようなグラフィティ的な作品、カラープリントを屋外に放置して埃を積もらせたシリーズなど、やりたいことをやり放題で形にしていっている。その全方位的なアンテナの感度を、どこまで保ち続けることができるかはわからないが、今のところはこの調子で突っ走っていっても大丈夫ではないだろうか。自主レーベルの写真集作りにもセンスのよさがうかがえる。こちらも、どんどん出していくといいのではないかと思う。

2010/12/11(土)(飯沢耕太郎)

金沢建築訪問vol.1

会期:2010/12/11

北國銀行武蔵ヶ丘辻支店(金沢アートグミ)、中島商店、中村卓夫家住宅・アトリエ[石川県]

NPO法人の金沢アートグミが企画した「金沢建築訪問 vol.1」のエスコート役をつとめた。これはクリエイティブ・ツーリズムというプログラムの一貫として行なわれたが、まちあるきを通じて、さまざまな発見をしていく、新しいタイプのツーリズムを模索するものである。実際、筆者も、建物の解説役というよりも(解説は坂本英之先生が担当)、参加者とともに、建物を味わうプロセスを共有し、ときには代表で質問することなどが求められた。ツアーは、アートグミが拠点を置く、村野藤吾設計による、北国銀行武蔵ヶ辻支店(1932)から始まった。続いて、村野藤吾による同年の中島商店。そして内藤廣による中村卓夫邸とアトリエを訪問し、陶芸家の施主から、ていねいな案内をしていただいた。最後はオプションとして主計町に向かい、むとう設計が手がけた、床上浸水し、空き屋となっていたお茶家のリノベーション「土家」を見る。むろん、普段は入れない室内も見学できたことは重要だが、物件の組み合わせがおもしろい。いずれも伝統と現代を考えさせる空間であり、かつて居住して知っているつもりの、金沢という街がもつ歴史の奥深さを、さらに新しい角度から発見するのによい機会となった。

2010/12/11(土)(五十嵐太郎)

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