artscapeレビュー

2011年03月15日号のレビュー/プレビュー

東京五美術大学連合卒業・修了制作展

会期:2011/02/17~2011/02/27

国立新美術館[東京都]

今年は全体に不作。昨夏の異常な暑さが影響したか。まさかね。見た順にいうと、まず女子美では、紙の裏表に絵を描いて両側から見えるように立てた大小島真木の作品は実験的だが、なぜ「デュアル」でなければならないのかよくわからない。あとは、絵のほかにスカートに首を突っ込む木彫を出した柳瀬はるかが目を引いた程度。武蔵美は、一見でたらめな抽象画に見えながらちゃんと絵になってる上野早智子、葉がカツラのような木を2本すばらしい色彩で表した笹井青依。多摩美は、青いカーテンだけをトートロジカルに描いた菊池宏介、橋本平八みたいに粘土を木で彫って台の上にのせた木村原理。造形大は、ベラスケスの原作を明るく軽快なタッチで翻案した佐藤理恵、こういう場所にはふさわしくない小さなキャンヴァスに近ごろ珍しい抽象を描いた八重樫ゆい。以上は合格。日芸は今年も全滅。ま、1時間ちょっとでサーッと見ただけなので、見逃した原石はたくさんあると思う。

2011/02/25(金)(村田真)

田窪恭治 展──風景芸術

会期:2011/02/26~2011/05/08

東京都現代美術館[東京都]

田窪恭治の個展と聞いて、いったいなにを出すのだろうと思った。ぼくが最初に見た田窪さんの「作品」は、たしか山岸信郎さんがやっていた神田の田村画廊か真木画廊での個展だったが、ギャラリーに入るとガラーンとして作品らしきものはなにもなく、片隅のテーブルにウィスキーの空きビンが置いてあるだけ。こういうのが「現代美術」なのかと、当時20歳の美大生は途方に暮れたものだった。のちにそれが、どうやら「バーボンが1本空くまでのはなし」というイベント(まだパフォーマンスという言葉すらなかった)の残骸であることを知るのだが。それが80年代になるとなぜか廃材に金箔を貼ったオベリスク状の立体になり、建築家とともに廃屋に手を加えた「絶対現場」を経て、90年代の大半をフランスの小さな礼拝堂の再生プロジェクトに費やし、現在は故郷の四国で金刀比羅宮の文化顧問として琴平山の再生計画を手がけている。その数奇な歩みはさておき、肝腎の美術館に運び込んで展示できる作品はオベリスク以外ないではないか、いったいどうやって巨大な展示空間を埋めるんだろうと疑問に思ったのだ。でもそんな浅はかな考えを一蹴するかのように田窪さんはやってくれました。礼拝堂再生プロジェクトと琴平山再生計画を可能な限り原寸大で再現する(田窪は「再現」というより「東京ヴァージョン」だという)大規模なインスタレーションを展開したのだ。展示室内に建築をもう1軒つくるようなものだから、いくら巨大な現代美術館でも大きすぎることはない。もっとも経費はそれだけ膨らむが。そんなわけで、ここ20年の田窪さんの建築がらみの仕事を紹介(というより再考)する意味合いが強く、それ以前の「絶対現場」は写真のみ、オベリスクは1点もなかった。

2011/02/25(金)(村田真)

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MOTアニュアル2011──世界の深さのはかり方

会期:2011/02/26~2011/05/08

東京都現代美術館[東京都]

冨井大裕、木藤純子、関根直子、池内晶子、椛田ちひろ、八木良太という30~40代のアーティストの紹介。この複雑に絡み合った世界をシンプルな素材とそれぞれの「術」で探求している人たち、ということらしい。身近な商品をポップに組み合わせてみせる冨井、目に見えないくらいの細い絹糸を展示室いっぱいに張り巡らせた池内、カセットテープを球状に巻いて音を出す八木などそれなりにおもしろいが、残念ながら田窪のダイナミックな仕事に触れた後では稚戯にしか感じられない。こっちを先に見たほうがいい。

2011/02/25(金)(村田真)

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西野壮平「WANDERING THE DIORAMA MAP」

会期:2011/02/15~2011/04/02

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

西野壮平は2005年の写真新世紀優秀賞(南條史生選)の受賞者。都市をさまざまな角度から撮影した写真を、コラージュの手法で繋ぎ合わせて再構築していく「DIORAMA MAP」シリーズを一貫して制作し続けている。当初はオリジナル作品をそのまま展示していたのだが、その後スキャニングして大画面にプリントアウトするようになった。大阪、東京など日本の都市からスタートしたこのシリーズも、ニューヨーク、パリ、ロンドン、イスタンブール、香港などに撮影範囲が拡大し、現在ではすでに10都市の「DIORAMA MAP」が完成しているという。基本的にその手法に変わりはないのだが、最近は画面のスケールが一回り大きくなり、より緻密で迫力のあるコラージュ作品に仕上がってきた。このような精巧な工芸品を思わせる技巧の冴えは、日本の現代写真を特徴づける作風として認知されつつあるのではないだろうか。西野もロンドンでほぼ同時期に個展が開催されるなど、その技術力と構想力がアメリカやヨーロッパでも高く評価されつつある。
注目すべきなのは、今回のEMON PHOTO GALLERYの個展でもその一部が展示されていたカラー写真による新作である。「Night」シリーズでは、都市の夜景を撮影してコラージュする。また「i-Land」シリーズではさらに積極的に複数の都市のイメージを自由に繋ぎ合わせ、「空想の都市を表象する」実験を試みている。創作意欲の高まりとともに、写真作家としての次のステップに踏み出していこうとしているのではないだろうか。そろそろ、作品集の刊行も視野に入れていってほしいものだ。

2011/02/26(土)(飯沢耕太郎)

小野寺南「untitled」

会期:2011/02/22~2011/02/27

企画ギャラリー・明るい部屋[東京都]

東京・四谷の企画ギャラリー・明るい部屋は、3月20日のクロージングに向けてメンバーの連続個展を開催している。そのうち小野寺南の「untitled」を見て、この2年の間に彼の表現力が格段に上がっていることがわかった。
今回の展示では、雪がうっすら積もる雑木林のような場所を6×7の中判カメラでやや引き気味に撮影した写真が並んでいた。黒枠のフレームに大全紙に引き伸ばした14点のプリントを余白なしでおさめ、ゆったりと間をとって壁に掛ける。部屋の中央には白布で覆われた小さな机が置かれ、その上に天井から2個の裸電球が吊るされている。その会場構成にまったく隙がなく、見事に決まっているのは、何度も個展を開催してこの部屋の空間を知り尽くしているからだろう。プリントはかなりの黒焼きで、暗部は闇に沈み、グレーの部分は電球の光の具合でむしろ銀色に輝いて見える。樹の枝や草むらがリゾーム状に絡み合う画面の細部に目をこらしていくうちに、小野寺が息を詰めてこれらの眺めを見つめている様子が浮かんできた。むろん重い鬱屈を抱え込んでいるのだが、それがシャッターを切るごとに解放され、少しずつ薄らいでいくのだ。
寒々とした風景に、それでも春の気配を感じとれるような気分が伝わってくる、心に染みる写真たちだった。

2011/02/27(日)(飯沢耕太郎)

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