artscapeレビュー

2011年03月15日号のレビュー/プレビュー

タムラサトル展 100の白熱灯のための100のスイッチ

会期:2011/02/05~2011/02/23

Bギャラリー[東京都]

ゆっくりと水平に回転する金属棒の左右に針金状の棒が50本ずつ立ち、その背後からたくさんのコードが出て100個の白熱灯につながっている。金属棒が回転して針金をなぎ倒すと白熱灯が次々に灯り、針金が元に戻るときに揺れると点滅し、やがて消える。つまり針金の下にスイッチが仕掛けてあり、金属棒の力でスイッチがオン/オフになることがわかる。いってしまえば、運動エネルギーから光エネルギーへの変換を視覚化して見せてるわけだ。人間の目は光に敏感なので、こういう装置ではまず白熱灯の光に引きつけられ、その原因として金属棒や針金の動きを見るものだが、ここでは金属棒と針金の動きを前面に出すことでまず原因を明らかにし、その結果として背後の白熱灯を光らせている。最初からタネ明かしをしているマジックみたいなものかも。

2011/02/13(日)(村田真)

川俣正:フィールド・スケッチ

会期:2011/02/04~2011/03/21

NADiff a/p/a/r/t[東京都]

川俣がデビューする70年代に身辺を撮ったスナップ写真。写っているのは建物の内外、郊外の風景、通路などで、人はまったくといっていいほど出てこない。1枚1枚はなんてことのないモチーフばかりだし、色もすでに褪せているが、そんな写真でも数百枚集まればなにか宝の山のように見えてくるし、現在の川俣の活動の原点をここに見出すことも難しくない。ちょうどゲルハルト・リヒターの「アトラス」みたいなもんか。目を引くのは部屋の片隅を撮った一群の写真で、白い天井と壁の境目がY字型にパースがついて妙に艶っぽい。それにしても感心するのは、こういう他人にはクズ同然のスナップ写真を何百枚も後生大事にとっておくこと。それが30数年後にはこうして日の目を見るのだから、やっぱり川俣は確信犯だ。

2011/02/15(火)(村田真)

TOKYO FRONTLINE

会期:2011/02/17~2011/02/20

3331 Arts Chiyoda[東京都]

「ニュー・コンセプトのアートフェア」ということで、今年からスタートしたのが「TOKYO FRONTLINE」。元中学校の校舎をフルに使って、盛り沢山の展示が行なわれていた。若手アーティストたち(うつゆみこ、高木こずえを含む)の作品ショーケースとして設定された「FRONTLINE」(1F)、アート、写真、デザイン、音楽、出版などのプレゼンテーションブースが並ぶ「EXCHANGE」(同)、東京を中心に中国、韓国のギャラリーのブースも加えた「GYM」(2F)がメインの展示である。EMON PHOTO GALLERY(西野壮平)、ときの忘れもの(五味彬)、ユミコ・チバ・アソシエイツ(鷹野隆大)、ZEN FOTO GALLERY(中藤毅彦)、The Third Gallery Aya(垣本泰美、城林希里香)など、写真を中心に展示しているギャラリーも多かった。総花的で焦点が結びにくいのは、このようなアートフェアでは仕方のないことだろう。回を重ねれば、地に足がついたものになってくるのではないだろうか。
同時期に3331 Arts Chiyoda本体の企画で、「ギャラリーに属していないフリーの現代美術アーティスト」を中心とした展覧会も開催されていた。その枠で個展を開催していた西尾美也の「間を縫う」(2月11日~3月14日)がかなり面白かった。西尾は1982年奈良県生まれ。今年東京藝術大学大学院博士課程を修了予定である。衣服とコミュニケーションが彼の主なテーマで、「セルフ・セレクト」シリーズはナイロビやパリで出会った若者たちと自分が着ている服を交換するというプロジェクト。「家族の制服」は、西尾本人の家族が20年前の記念写真とそっくりの服を着て、同じ場所で同じポーズを決めるという作品である。どちらも記念写真の様式をうまく使いこなして、知的な笑いを生み出していた。

2011/02/16(水)(飯沢耕太郎)

せんだいスクール・オブ・デザイン 2010年度秋学期成果発表シンポジウム

会期:2011/02/17

せんだいメディアテーク 1Fオープンスクエア[宮城県]

第一部は、せんだいスクール・オブ・デザインの第一期の各スタジオによる発表が行われた。Futureラボを担当した石上純也と平田晃久も駆けつけたが、二人のスタジオの成果は、それぞれ彼らの特徴がよく反映されていたのが印象的だった。五十嵐スタジオでは、文芸批評誌『S-meme』を制作したが、右から開くと、縦書きで非仙台サイドの特集「ウェブの時代に紙の媒体ができること」、逆に左から開くと、すべて横書きの仙台サイドの内容になる。受講生のグラフィックデザイナーと製本部の協力によって、手品みたいな特殊装幀の本を実現した。なお、2月4日の学内発表会では、本屋のフィールドワークで知ったビッグイシューのユニークな販売員、鈴木店長を招き、大学で実演販売を試みた。彼がすごいのは、こちらが関心あるテーマを伝えると、だったら何号と何号のこれ、と即座に返答し、バックナンバーをすぐ取り出せること。過去の内容をすべて記憶しているのだ。まさに本屋の原点であり、未来の書店を先どりしているように思われた。
その後、第二部としてパネルディスカッション「デザイン教育のグローバルビジョン」が開催された。阿部仁史はUCLA学科長として優秀な教員確保も兼ねて、外部の企業と連携していく大学の戦略を語り、アーティストの中村政人は3331Arts Chiyodaや富山のヒミングなど、地域を活性化させる大学外の活動を紹介し、文部科学省の神宮孝治は大学教育の現状を報告し、せんだいスクール・オブ・デザインをいかに継続させながら、地域とのつながりをつくっていくべきかが討議された。

2011/02/17(木)(五十嵐太郎)

荒木経惟「愛の劇場」

会期:2011/02/18~2011/03/26

Taka Ishii Gallery Photography/Film[東京都]

六本木の青山ブックセンター裏手のピラミデビルに、4つの現代美術・写真ギャラリーが同時にオープンした。オオタファインアーツは勝ちどきから、ワコウ・ワークス・オブ・アートは西新宿から、Zen Foto Galleryは渋谷からそれぞれ移転し、Taka Ishii Galleryは清澄白河の本体に加えて写真・映像部門を新たに開設することになった。森美術館にも近く、絶好の立地条件なので、かなりの観客動員が期待できそうだ。
他の3つのギャラリーは、所属作家の作品を並べただけの顔見せ展でスタートしたのだが、Taka Ishii Gallery Photography/Filmは荒木経惟の個展を開催した。最近見つかったという、キャビネ判の印画紙の箱におさめられた1965年頃の写真シリーズである。65年といえば、荒木がまだ電通の広告カメラマンだった時期で、にもかかわらず会社のスタジオや機材を勝手に使って自分の作品を撮りためようとしていた。内容的にはかなり雑多なシリーズだが、ラブホテルでの二人の女の絡み、ハーフサイズのカメラを使ってひとつの画面に複数の連続場面をおさめる試み、フィルムの高温現像による画像の改変など、のちの『ゼロックス写真帖』(1970年)に通じるさまざまな実験に真面目に取り組んでいるのがわかる。若き日の陽子夫人のういういしいポートレートが含まれているのも興味深い。まさに「その頃の私の女と時代と場所が写っている」意欲作だ。荒木のこのような未発表作品は、これから先ももっとたくさん出てきそうな気がする。

2011/02/18(金)(飯沢耕太郎)

2011年03月15日号の
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