artscapeレビュー

2011年04月15日号のレビュー/プレビュー

上須元徳 展 “RE:Assemble”

会期:2011/02/11~2011/02/13

YOD Gallery[大阪府]

上須元徳はこれまで一貫して、普段目にする町並みや建築など、撮影した風景の写真をもとにリアルに描いた作品を発表してきた。輪郭ではなく色面で構成されるその作品には、モチーフとなる複数の風景が部分的に組み合わされていたり、時間のズレを感じさせるものがまぎれていたりと、違和感を感じさせる特定のイメージが織り込まれ、現実に目にしている世界と人間それぞれの知覚、感覚の関係について考える作家の意図が比較的解りやすく示される場合が多かった。しかしモノトーンの作品ばかりが発表された今展の作品にはどれも、これまでの普遍的な風景のなかに描かれていた、例えば、固有名称が書かれた看板や自動車の車種など特定のイメージはない。無機質な大きなドーム型建築、ソテツの木、地面を被う落ち葉など、どれも物質的な普遍性や価値だけが画面に表わされている。違和感によって他者と自己の関係やアイデンティティについて考えるのではなく、普遍性からアイデンティティを探る新たな試みに見えた。今後どのように表現が展開するのか気になる。

2011/03/26(土)(酒井千穂)

風穴 もうひとつのコンセプチュアリズム、アジアから

会期:2011/03/08~2011/06/05

国立国際美術館[大阪府]

かーちゃんが子どもを連れて京都にトンヅラこいて1週間、とーちゃんが愛想を尽かされたこともあるが、なにより地震と放射能を避けての疎開だ。迎えにいくついでに、まずは大阪に寄って国立国際へ。サブタイトルのようにアジアのコンセプチュアル系の作品を集めたもの。だいたいコンセプチュアルというとモダニズムの芯だけ残ったダシガラというか、ストイックで退屈なイメージが強いが、幸か不幸かモダニズムが十分に浸透しなかったアジアではお笑いに走るゆるいコンセプチュアルアートが散見される。なかでもいちばん笑えたのが島袋道浩の《箱》。展示室の片隅に段ボール箱が置いてあり、なかから話し声が聞こえてくる。耳を澄ますと、「おれ、箱やねんけど、けっこうおもろいで」みたいな関西弁のつぶやきが。どこがコンセプチュアルやねん、とも思うけど、これこそコンセプチュアルかもと思い直す。なにしろ箱と声だけだから、ジャッドもコスースも真っ青。ちなみに島袋は生きたカメも出品していたが、こちらはひょっとして生きた馬を展示したことのあるヤニス・クネリスのパロディか。西洋の馬に対し、アジアを代表する動物がカメだとすればいかにもどんくさそうな気がするが、ウサギとカメじゃないけど最後はカメが勝つという教訓かも。もうひとつ笑えたのは、タイの農民たちにマネやゴッホらの絵(複製)を見せ、その反応を収録したアラヤー・ラートチャムルーンスックによる映像。アジアの農村風景のなかに置かれた西洋絵画という組み合わせ、正面を向く絵画と背中を向ける(絵を見てる)村民たちの対比、漫才のような彼らのパタフィジックなやりとりなど、笑えるだけでなく文化人類学的にも興味深い。その後、隣接する大阪市立近代美術館の建設予定地で、「おおさかカンヴァスプロジェクト」の一環として計画されていた西野達の作品を見に行ったら中止だと。自動車やら家電やらカップラーメンやらを大型クレーンで吊るす計画だったが、震災後なので危険がアブナイと判断したらしい。残念。

2011/03/27(日)(村田真)

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wah document÷てんとうむしプロジェクト「tightrope walking?てんとうむしのつなわたり」

会期:2011/03/08~2011/03/27

京都芸術センター[京都府]

小学校の建物を改装した芸術センターの廊下に黒い帯状のロープが張られている。たどっていくとギャラリーに行きつき、綱渡りのドキュメント映像が流れている。中庭には2階の窓から向かいの2階の窓にもロープが張られ、そこでも綱渡りが行なわれたらしい。これも震災直後のため実現か中止かで激論が交わされ、いったんは中止の決定が下されたというが、それをくつがえしたのは16年前の阪神大震災のときに痛感した「芸術の無力さ」だったという。中止するのは簡単だが、それでは芸術の無力さを認めてしまうことになるという判断だ。でも綱渡りは「芸術」か? もし事故が起きたら? 実現か中止かの判断もまさに「つなわたり」だったようだ。

2011/03/27(日)(村田真)

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始発列車「モトコーART train」

会期:2011/03/12~2011/03/27

神戸 元町高架通商店街(モトコータウン)[兵庫県]

JR元町駅西口から、神戸駅までつづく元町高架通商店街。現在ではシャッターがおりたままの商店が多く目につくこの通りの空き店舗を会場にして、松井コーヘー、国谷隆志、國府理、岡本和喜、内藤絹子、涌嶋克己、森田麻祐子、早川季良の8名のアーティストが作品展示を行なっていた。神戸には行くが「モトコータウン」と呼ばれるこの商店街を訪れたのはほとんど初めてとも言える機会だった。高架下の狭い商店街の、雑多で少し怪し気な馴染みの無い雰囲気がまずなによりも新鮮だったのだが、そのところどころにあった各作家の作品展示スペースでは、作家本人が鑑賞者を迎え、和やかに会話する光景も見られた。もはや廃墟となってしまった空間はその歴史もうかがわせ、この場所が賑わっていた頃にも思いが延びていくよう。今後も第2回、第3回とシリーズで続く予定の企画のようだ。また訪れる機会も楽しみだがその成果にも期待したい。

2011/03/27(日)(酒井千穂)

中島麦 展「僕は毎晩、2時間旅をする」(同時開催:中島麦(美術家)×武内健二郎(詩人)「きれはし on board」)

会期:2011/03/20~2011/04/03

GALLERY 301[兵庫県]

同じ階の空間で同時開催されていた詩人の武内健二郎氏との二人展は、ちょうどワークショップが行なわれていたようで見ることができなかったのだが、個展はゆっくりと堪能できた。筆を運ぶスピードと絵の具の盛り上がりの筆触が生き生きと感じられる絵画は、のどかな風景を想起させるものが多いのだが、その色彩の物質的な強度が空間的な広がりも感じさせる。小さな作品が多いが魅力的な個展だった。

2011/03/27(日)(酒井千穂)

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