アート・アーカイブ探求

狩野元信《四季花鳥図》和漢兼帯の型──「山本英男」

影山幸一

2011年09月15日号

【四季花鳥図の見方】

(1)モチーフ

異国の鳥の小綬鶏(こじゅけい)や四季の花木を配した自然風景。

(2)題名

四季花鳥図。

(3)構成

四季を別々の画面に描く中国画に対して、ひとつの空間のなかに四季を混在させる日本画。つまり日本は夏と冬を同居させるようなありえない構成をするが、それは春夏秋冬を展開していく大和絵からの着想である。

(4)構図

元々は京都・大仙院の檀那の間に描かれた八面の襖絵であったが、保存のため八幅の掛幅に改装された。今回は印象的な春夏の場面四幅。原寸大に描かれた松がS字に曲がりながら上部へ伸び、左右に枝を張り出して横長の画面全体を支えている。

(5)色

墨の黒を基調に青、緑、桃、赤など、華やかな色を鳥や花弁部分に施し、画面全体を装飾。

(6)描法

漢画の技法を用いた硬い馬遠様の真体画。

(7)サイズ

各174.5×139.5cm。

(8)制作年

1513(永正10)年。寺院の建築史から見ると1535(天文4)年説もある。

(9)画材

紙本著色。紙に墨、岩絵具。

(10)画風

父である正信の美しさや端正さを継承し、そこに一層の明るさを加えて、より強く視覚に訴えかけてくる。

(11)落款

なし。

(12)鑑賞のポイント

画面右から、春夏秋冬となっており、春夏の場面は穏やかな春の水景から勇ましい夏の滝までが描かれている。元信は、前景に大きい松を描きつつ、遠景にうっすら山を描くなどの処理をし、画面に奥行きを与え、また長大な画面をつなげている。一方で桃山障壁画を先取りしたような太い松や天空から落ちてくる滝を躍動感溢れるように描き、余白の広い画面全体には繊細な美しい色をリズミカルに配置。自然らしさと装飾化、緊張とリラックスがちょうどよくバランスをとっており、気持ちを和ませてくれる楽園に見える。

狩野派を凝縮

 京都五山のひとつである相国寺がある烏丸今出川の交差点から歩いて5分ほどのところに、元信の家はあった。現在の住所では上京区元誓願寺通新町西入元図子町である。ここに「狩野辻子(かののずし)」の石碑(写真参照)が立っている。石碑には「此附近 狩野元信邸址 旧名狩野図子。大正六年一月建立 京都市教育會。昭和三年六月 京都史跡會引継」とある。辻子とは南北の通りに対する東西の横道やその横道付近の町のことで、横町と言い換えればわかりやすいと山本氏。500年前は活気ある「狩野横町」が存在していたことをイメージした。実際に行ってみると、狭い道沿いに家が密集し、ゴミ集荷場の目印となっている石碑は辛うじて元信の存在を伝えていた。


狩野辻子の石碑

 近世をつくったのは元信といっても過言ではないと山本氏。《四季花鳥図》について「《四季花鳥図》は正信のもっていたものを発展させて制作した典型作です。かゆいところに手が届く絵なんです。ですから破綻が無い。すべてのものが整然と配置され満たされている。しかも大きな松や滝、異国の鳥などを取り入れ目を奪う。誰もが納得してしまう要素をすべて備えている。それが元信の特徴であり、狩野派が長く継承されていく基になっている。狩野派のすべてが凝縮されている」と述べた。
 画家の署名もない絵が、この時代のこの画家の絵だとわかるのはなぜか、と山本氏が学生時代に不思議に思ったことについて「それは時代の様式と画家の様式を研究した成果によって明らかになる」と微笑んだ。絵画のなかに持続性を探求していくと、その基底には手本を学び修練を積むという行為がある。「型」を体得し、そのうえで個性を発揮する。表現の自由は、鍛練した技に備わった精神の先にあり、またそこに持続的なシステムが創造されていくのかもしれない。




主な日本の画家年表
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山本英男(やまもと・ひでお)

京都国立博物館学芸部美術室長。1957年岡山県倉敷市生まれ。1981年大阪大学文学部卒業後、山口県立美術館学芸員となり、1987年より京都国立博物館勤務。専門:日本中世近世絵画史。主な著書:図録『特別展覧会 室町時代の狩野派 ─画壇制覇への道─』(京都国立博物館, 1996)、『日本の美術 初期狩野派─正信・元信』(至文堂, 2006)など。

狩野元信 (かのう・もとのぶ)

室町後期の絵師。1477〜1559。奈良押上生まれ。狩野派2代目。父は狩野派の祖、狩野正信。名は四郎二郎、大炊助、越前守がある。父の時代より画域を広げ、支持層は幕府や寺院のほか、宮廷、富裕町衆など、あらゆる階層の要求に応じ、元信によって狩野派は「天下画工之長」として飛躍した。室町時代の漢画系画家に大きな影響を与えた馬遠、牧谿、玉澗などの諸筆様の統合整理を行ない、大和絵の技法も取り入れ、描写密度の高いものから真・行・草の画体を弟子に学ばせ、画風の統制を図った。分担制作を可能として、江戸時代まで続く狩野派の基盤を築く。法眼に叙され古法眼の異称もある。代表作に《四季花鳥図》《禅宗祖師図》《釈迦堂縁起絵巻》《細川澄元像》など。

デジタル画像のメタデータ

タイトル:四季花鳥図。作者:影山幸一。主題:日本の絵画。内容記述:狩野元信, 室町時代1513(永正10)年, 紙本著色, 各174.5×139.5cm(八幅のうちの四幅, 春夏), 重要文化財, 大徳寺大仙院蔵, 京都国立博物館寄託。公開者:(株)DNPアートコミュニケーションズ。寄与者: 大徳寺大仙院。日付:2011.9.9。資源タイプ:イメージ。フォーマット:Photoshop, 1000dpi, RGB 8bit, 91.8MB。資源識別子:MITSUBISHI KAGAKU MEDIA 650MB CD-R 4x48(5130LB101HS04360S81D4)。情報源:京都国立博物館。言語:日本語。体系時間的・空間的範囲:─。権利関係:大徳寺大仙院, 京都国立博物館



【画像製作レポート】

 《四季花鳥図》は大徳寺大仙院の所蔵。「作品画像借用書」を大徳寺大仙院へFaxし、その後電話で作品のポジフィルム借用を依頼。電話で許諾を得、「許諾書」を郵送していただく。作品の写真は京都国立博物館(京博)が管理しているとのことで、京博へ電話し、手続方法をFaxしていただく。指定されたWebサイトにアクセスし、書式をダウンロード。「作品画像借用書」「許可証」「作品の画像コピー」「返信用80円切手付き封筒」を作成し、社印を押して京博へ郵送。4点のカラーポジフィルムを依頼したが、一週間後《四季花鳥図》の指定した4画像のデータが入ったCD-Rが送られてきた。カラーガイド付きは春の場面の2点のみ。
 2011年10月から京博では写真の取り扱い業務が変更となるとのことで、今回はその切り替え期間にあたり、デジタルデータとなった。外部業者への画像製作代金は発生せず、博物館へ支払う特別観覧代のみとなった。画像取得代金は大徳寺大仙院2万円、京博4,200円(1,050円×4)。
 iMacの21インチモニターをEye-One Display2(X-Rite)によって調整後、画像製作に入る。各画像(「1169_1」92.8MB, TIFF, 「1169_2」93.3MB, TIFF, 「1169_3」94MB, TIFF, 「1169_4」94.6MB, TIFF)を目視により色を調整し、画像を回転(各0.8, 0.1, 0.5, 0.2度反時計回り)させ縁に合わせて切り抜く。そして4枚の画像をつなぎ合わせて、Photoshop形式91.8MBに保存した。
 ポジフィルムを取り扱うのに比較して画像データは作業効率に優れている。さらにいえば、画像データの製作過程を表わすメタデータの公開と、画像サイズなどが選択できるよう画像データのバリエーションがあるとよい。ユーザーが何を求めているか、サプライヤー側の配慮がサービスを向上させ、ユーザーとサプライヤーの信頼を築いていく。来月から京博の写真貸出や画像販売サービス事業がどのように変化するのか楽しみである。 セキュリティーを考慮して、画像には電子透かし「Digimarc」を埋め込み、高解像度画像高速表示Flashデータ「ZOOFLA」によって、コピー防止と拡大表示ができるようにしている。
[2021年4月、Flashのサポート終了にともない高解像度画像高速表示データ「ZOOFLA for HTML5」に変換しました]



参考文献

武田恒夫『原色日本の美術 第13巻 障屏画』1967.4.15, 少学館
山岡泰造『日本美術絵画全集 全25巻 第7巻 狩野正信/元信』1978.8.25, 集英社
辻 惟雄『戦国時代狩野派の研究──狩野元信を中心として──』1994.2.25, 吉川弘文館
図録『特別展覧会 室町時代の狩野派 ─画壇制覇への道─』1996, 京都国立博物館
山下裕二「狩野派の登場 400年にわたる画壇の覇者・狩野派の基礎がつくられる」『日本美術館』p.492-p.493, 1997.11.20, 小学館
山下裕二『室町絵画の残像 Visual Echoes of Muromachi Painting』2000.3.30, 中央公論美術出版
今泉淑夫・島尾新 編『禅と天神』2000.11.20, 吉川弘文館
Webサイト:「桃山時代の絵画1 水墨画の展開 初期狩野派と永徳」『日本美術史ノート』2002.10(http://www.geocities.jp/qsshc/cpaint/nihon18.html)2011.9.4
『別冊太陽 日本のこころ131 狩野派決定版』2004.10.13, 平凡社
山本英男執筆・編集『日本の美術 初期狩野派─正信・元信』No.485, 2006.10.15, 至文堂

2011年9月

  • 狩野元信《四季花鳥図》和漢兼帯の型──「山本英男」