アート・アーカイブ探求

池田学《再生》──ペン画が編み出す自然と文明の神話「吉川利行」

影山幸一

2009年04月15日号

自然が作る形

 東京都下にある池田のアトリエ兼自宅を訪れ、池田のことと《再生》にまつわる話を伺った。今年3月に生まれたという女の子がいた。池田は1973年佐賀県生まれ。二浪して東京藝術大学に入学したというが1998年に同大学の美術学部デザイン科を卒業後、2000年に同大学大学院修士課程を修了し、2001年には公募展にて大賞を受賞するなど、順調に画家生活をスタートさせている。最近ではイタリア、ドイツ、カナダ、アメリカにも作品が紹介され、来年には池田自身海外留学を予定している。
 池田は子どもの頃から、親戚などに美術やデザインに関係した人が多く、特別絵描きになりたいという夢はなかったそうだ。自然な流れのなかで描きたいから描くという環境を得ている。とにかく自然が好きで山や川に行っては、カブトムシを捕ったり、釣りをしていた。大学では山岳部に所属し、今も山、岩、スキーなどアウトドア全般が趣味だと言う。本棚には「ナショナルジオグラフィック」がきちんと並んでいた。「山には潜んでいるたくさんのものを探し出す面白さがあり、山を歩いたり、岩を登ったりすると、いろんな自然の形が見えてきて、そこに家を建てたり、小さい人物を描いたりなど、絵のモチーフに直結する作品のアイデアや創造力が湧いてくる」と言うのだ。
 近代的な都市やヨーロッパの整然とした町並みよりも、遺跡など有機的な形の人工物と自然が絡み合い、くずれやゆがみの完成されていない形に刺激を受けるという池田。実際に話を伺う前は、野菜などで顔を描くジュゼッペ・アルチンボルドや人体をパーツとして顔を描く歌川国芳など、他の作品に感化されたところもあるかと思い質問したが、そうではなくどちらかと言えば宮崎駿のアニメやゲームなどの世界に親しみがあるそうだ。が「若冲や北斎、エゴンシーレやクリムトも好きだな」とも。

無限の時間の一コマ

 学芸員の吉川氏は、小学校の先生から異動してきた2007年に初めて《再生》を見たそうだ。「忘れられない精密な画風は努力というか一筆一筆魂を込めて描いていることが感じられインパクトがあった」と言う。吉川氏に《再生》の見方を伺った。

【再生の見方】

(1)モチーフ

戦艦。一瞬顔にも見える。視覚に訴える効果をアーティストは考えていたのかもしれない。公募展のテーマから、自然と文明の融合をごつごつとした形の面白い船で表現したのだろう。見ているだけで楽しく、会話がしたくなる作品。

(2)構図

船を横ではなく真正面からとらえた構図。アーティストの想いが込められている。

(3)構成

下書きなしで思いつくままに絵をつなぎ合わせている。場面ごとにストーリーがある。

(4)サイズ

縦162×横162cm。公募展が規格している60号以上100号(縦162.2×横162.2cm)以内という最大の作品サイズである。

(5)画材

綿100%のアルシュ(ARCHES)という紙に、アクリル樹脂を使用した顔料系カラーインク「ドクターマーチン」を使用してZEBRAの丸ペンで描いている(写真参照)。

丸ペンとインク
丸ペンとインク

(6)技法

1日8時間ほど描いても、手のにぎりこぶし1つほどしか描けないというペン画。

(7)表現内容

かつて戦争の道具であった船が役目を終えて海底に沈み、時代が変わると共に新たな命を作り出す寝床となっているイメージ。それが繊細なタッチと相まってインパクトを与えている。

(8)音

無限の時間の一コマで静かな世界だが、深海に聞こえる水の音がする。

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