2018年11月15日号
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デジタルアーカイブスタディ

アニメーションアーカイブの現状 2017

山川道子(株式会社プロダクション・アイジー)

2017年12月15日号

2017年「東京アニメセンター」が秋葉原から東京・市ヶ谷のDNPプラザへ移転し、国立新美術館では国立として初めてとなるアニメーション展が行なわれている。クールジャパンの具体例として名が挙がるアニメーションだが、その作品や資料の保存については語られる機会が少ない。アニメの原画と映像保存の現状、アニメアーカイブの対象範囲と分類法、原画のデジタル化手法、アーカイブ構築の方法、業務での利活用と資料の公開状況など、アニメーションアーカイブの現状をプロダクション・アイジーのアーカイブグループリーダーである山川道子氏にご執筆いただいた。山川氏は文化庁のデジタルアーカイブ事業に関わり「メディア芸術データベース(開発版)」構築にも参加された。

はじめに

12月18日まで国立新美術館において開催中の「新海誠展」はご覧になりましたでしょうか? 国立の美術館で初めてアニメーションの展示を本格的に行なったことに驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。展示されている原画や絵コンテなどは当たり前に残るものではなく、残す努力をしなくては残らないものなのです。まさにそれこそが私が日々行なっているアーカイブ活動になります。

私が所属している株式会社プロダクション・アイジー(以下、I.G)はアニメをつくる現場を持っている制作会社であり、出資を行なう製作会社です。近年は、アニメ作品の舞台化や実写映画の製作、VR、小説・マンガの原作、展示会、商品開発も増えてきています。業務内容が多岐にわたっていることで、各分野のアーカイブの問題点が見えやすい位置にいるように思います。ここではなかでもアニメーションのアーカイブについてご紹介します。


わすれなぐも[© 海谷敏久/Production I.G/文化庁 H23アニメミライ]

大量に発生する中間成果物

私がリーダーを務めるI.Gアーカイブグループでは、業務中に発生した資料を収集・整理・選別・保管を行ない、利活用に対応することがメインミッションとなっています。基本的には社内スタッフからの問い合わせに対応しております。その数は月に最大で200件にもなることがありました。

制作現場からは、新作や続編の制作用にと過去作品の設定画や色指定データの取り出し依頼があります。また、アニメーターや演出家に仕事を発注する際に、彼等の作風を確認するためにと過去に関わった作品を見せてほしいという依頼もあります。そのほかにも、国内ライセンスからは商品化や映像配信のために映像マスターを求められますし、展示会や商品開発の相談と監修作業などの依頼があります。過去にDVDで発売したものをブルーレイで発売し直すようなケースや、原画集や設定集のような書籍の作成など、皆さまも売り場で見かけたことがあるのではないでしょうか? アニメーターからは、自身の勉強用のほか、毎年3月になると、新人教育用に原画の貸し出し依頼が必ずあります。基本的には社内を対象としていますが、受け渡した相手の使用目的を考えると半分ほどは他社への貸し出しと言ってもよいかもしれません。

アニメーションアーカイブというと、映像の収集を中心とした議論がされることがありますが、映像をつくる際に発生した原画類を「中間成果物」と呼び、それらの収集保管も考えられるようになりました。アーカイブの幅は広がったものの、従来のアーカイブズが対象とするような契約書や会議の議事録は対象とされていません。理由を私なりに考えると、アニメ業界の裁判数が少ないことと、業界全体が若いというのが理由かと思われます。かなり浮き沈みが激しい業界のために資料が残りにくい現状があります。弊社の場合は契約書に関しては法務が一括して保管しています。法務があるアニメ制作会社はそんなに多くないと思われます。そんな理由から、自然と業務資料が多くなります。その絵の多くは紙に鉛筆で描いておりますので、紙資料が膨大に発生しています。着色からはデータとなりますので、大量のデータも発生します。


図1 制作工程で発生するモノ

これだけ複雑になると、全体像を把握するには各部署で働いたことのある人間が適任となりますが、そこまで多くの場所を経験できる人は少なく、慢性的に適任者不足となります。私は制作進行出身で、広報を経験したのちにアーカイブ担当となったことで、理解できる幅が広いことが業界でも稀な仕事ができている理由だと思われます。

一般的にはアニメーターが描いた原画は映像の納品が終わると産業廃棄物として処分されます。弊社では納品後1年間は原画を残しておき、その後は不要と判断されれば関係各社に確認を取ったうえで処分をしています。

処分の際は評価選別を行ない、より使い勝手のよい資料を残して資料の価値を高めつつ、保管費用の削減を行なっています。しかし、このように評価選別には時間も人も必要となるため、多くの会社ではそのまま捨てることとなっています。

映像マスターをいかに残すか

では、完成した映像の方はというと、テレビ局・映画会社・ビデオメーカーなどのクライアントに映像マスターを納品して、自社にはテープが残らない会社が大半だと思われます。弊社では可能な限りテープを回収して次のビジネスチャンスに活かしておりますが、それが可能なのは、弊社が出資も行なう製作会社であり、製作委員会に属しているので活用のチャンスがあるということが大きな理由です。

完成した映像は制作会社から放送・公開・ビデオなどの各会社に渡った後は、各社で保管をされるか編集作業を行なった現像所が保管しているケースが多くあります。これはフィルム時代からの業界の慣習的なもので、その結果として制作会社がなくなるなどして孤児フィルム化していく要因となりました。現像所から制作会社や放送局に返却されたとしても、保管庫の不足や環境の悪さから処分や紛失ということがよくあります。そういったことから、アニメの映像マスターが残っていることが少ない状態にあります。

映像マスターはそれ自体がつねに劣化の危機にあります。初期はみなさんご存知のフィルムでつくられていました。1990年代がフィルムから磁気テープに移行する過渡期でした。2000年後半には映画でもフィルムが使われなくなり、現在はテレビや映画などは磁気テープを使用し、数分の短い作品はデータ納品が増えてきました。

それぞれのメディアによって必要な保管方法は変わります。フィルムはそれ自体が加水分解していき、ビネガーシンドロームが起きてしまう場合があります。それを防ぐためには、低温低湿の場所での保管が必要となります。

磁気テープ自体の耐用年数は古い種類のもので数年でしたが、最新のHDCAM SRテープでは30年までと長くなりました。「磁気」テープというだけあって、強い磁気に触れると中の映像が破損する場合があります。近年のスマートフォンや文具には磁石付き商品が増えましたので通常の取り扱いにも注意が必要です。磁気テープは保存環境がよく残ったとしても、再生機器の販売終了や劣化によって再生できなくなってきています。最新のSRテープでさえ、再生デッキの販売は2016年3月末で終了しており、保守も2023年3月末までとなっています。

今後増えてくるデータ納品ですが、ハイビジョンの30分作品を無圧縮で残すと約500GBにもなります。こちらも保管用のHDDの耐用年数は5年ほどと短いため、つねにマイグレーションを必要とします。さらに、書き込まれているファイル形式の違いによっては読み出せなくなるという問題があります。

映像マスターには「フィルム」「磁気テープ」「データファイル」という大きく3種類があり、同じ作品で複数存在する場合などがありますが、公的な保管施設というとフィルム用のフィルムセンターしかない状態です。今後は、それぞれの扱いに長けている専門作業者と専門機器がある保管施設が必要となってきます。

鉛筆線のある原画とデジタル化

タブレットの技術向上が盛んではありますが、原画の多くが従来どおりの鉛筆で紙に描かれています。分業化が進んでいることと初期投資の金額が高いことから、業界全体ではデジタル作画へ移行しづらい状態です。しかし、タブレットが身近な道具となったため、あと数年でタブレットの方が描きやすいというアニメーターが増えてくることが想像できます。一見大量の紙から解放されてアーカイブが楽になるようにも思えますが、実際には使用ソフトのバージョンアップによってファイルが開けなくなる危険性が高く、アーカイブ担当にとっては悩みの種となっています。


図2 制作工程で発生する紙に描かれた絵


図3 スキャニングしてデータ化された絵と、着彩したデータとデータで届く背景画

すでに紙に描かれている絵でも、動画から着彩へ渡る際にデータ化されます。ここで注意しなくてはいけないのは、アニメ本編用のスキャニングデータは解像度が低いので印刷に向きません。さらには、線を二値化してから使用しますので鉛筆のタッチは残りにくいのです。書籍用に繊細な線を残すためには、商品化やアーカイブ用に別途スキャニングを行なう必要があるのです。

アニメ資料の展示は海外でも行なわれており、「Proto Anime Cut」展には弊社も協力しております。資料を提供するにあたって先方の展示担当から生の鉛筆線がある原画であるかどうかを強く確認されました。海外での展示では絵画としてアニメ資料を見ているという強い印象が残る出来事でした。今後はボーンデジタルの絵が増えてくるために、デジタルデータの魅力的な展示の仕方というのも積極的に検討していかなくてはいけません。展示に限らず、研究分野でもアニメ資料は強い関心を持たれています。日本文化、日本語教育、ジェンダー研究などのあらゆる視点からの研究が可能だと複数の研究者から話を伺っております。


図4 複数のレイヤーを重ね合わせたもの
わすれなぐも[© 海谷敏久/Production I.G/文化庁 H23アニメミライ]

国内での利用方法としては展示と商品化というのは必須となってきています。市ヶ谷の東京アニメセンターにも、「物販」「企画展示」「常設展示」と大きく3つのコーナーがあります。一般に広く伝わりやすい情報発信の場として、このような施設の重要さはますます高まっていきます。国内外のこうした要求に応えるためには、彼らに向けての資料提供がスムーズに行なえる環境を整える必要があると強く感じています。

I.Gが現在採用しているアーカイブ管理方法のベースになっているのは、長年現場で培われたアニメーション制作方法に属した資料の保管方法や番号付けのルールです。近年アーカイブズ学に触れたことで、改良の必要があると感じています。制作現場から資料を収集し、適切な評価選別を行ない、利用者へ届け、利用結果もアーカイブしていく流れをより大規模に行なっていくためには、アーカイブや利活用時に困らない管理方法が必要となります。国が計画しているMANGAナショナルセンター構想が実現すれば、会社や業界を超えた取り組みにより、スムーズなアーカイブズと利活用が実現できるようになるのではないかと大いに期待しているところです。

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