デジタルアーカイブスタディ

慶應義塾大学 樫村雅章氏に聞く:『貴重書デジタルアーカイブの実践技法────HUMIプロジェクトの実例に学ぶ』出版について

影山幸一

2010年11月15日号

貴重書の撮影手法──デジタルファクシミリ制作手順

貴重書の撮影手法を教えてください。

樫村──デジタルカメラによる書物の撮影と、フィルムカメラによるフィルムスキャンの2通りがありますが、これから需要が増えると思われるデジタルカメラによる撮影について概要を説明します。まず最近はデジタルカメラバック(Phase One社 P45+)と中判カメラ(Mamiya-OP社製6×7判カメラRZ67 ProfessionalⅡ, セコールレンズ)を組み合わせて利用しています。本番撮影に入る前には、CCDSなどのエリアセンサの埃や汚れを必ず確認し、必要に応じてクリーニングを行なうようにしてきました。汚れが付いたまま進めてしまうと、ずっと悪い撮影結果が出てしまいますから。準備に3日間かけるときもあるほど、黒幕の設置やストロボの配置など撮影環境を十分に整えます。特製のブック・クレイドルを使い、一定の開き角を保ったまま、本の姿勢を柔軟にコントロールし、カメラとページ面を正対に向き合わせ、構図の調整、フォーカス調整、入力解像度など、機器の調整と確認を行ない、標準色票とスケールの撮影、それから1ページずつ書物の撮影を行ないます。3ページ程度ごとの間隔で0.5mmずつ、カメラを書物に近づけ、また9ページ程度ごとにページ面にスケールを載せて撮影を行ない、得られた画像に写っているスケールの一定の長さの部分の画素数を測定することで、カメラとページ面との間の距離の変化を確認します。変化が生じている場合は、カメラを書物に近づける操作を行なうページ間隔を増減して調整しました。撮影したそれらの画像データは現在複数のサーバに保存し、DVD-RAMやDVD-Rなどにも複製保存しています(画像参照)。


HUMIプロジェクトが開発した特製ブック・クレイドル


特製ブック・クレイドルの構造と働き


冊子本撮影セット全体の様子(英国スコットランド国立図書館におけるグーテンベルク聖書撮影時)①ストロボヘッド ②デジタルカメラシステム ③特製カメラ架台と大型雲台 ④情報提示板 ⑤参照画像表示用パソコン ⑥小道具類 ⑦特製ブック・クレイドル ⑧座標原点 ⑨自動記録式温湿度計


フォーカス確認用立体撮影の様子


標準色票 左上:ColorChecker miniとKodak Gray Card。右上:ColorChecker。右下:ColorChecker DC。左下:ColorChecker Digital SGの撮影の様子


画像ファイルを扱うための機器の構成

「貴重書デジタルファクシミリ」の制作手順を聞かせてください。

樫村──デジタルカメラで撮影した「RAW形式データ」をデジタル現像処理したもの、または「現像済みフィルム」をスキャンしたものから「一次画像データ」を作成します。そしてこれらの「一次画像データ」に、カラープロファイルの作成と埋め込み、メタデータ付与、ページ領域情報の保存をして「中間画像ファイル」をつくります。次にトリミング処理、カラープロファイル変換をしてから「保存用」の貴重書デジタルファクシミリ(250〜400dpi, AdobeRGB, RGB各16ビット, TIFF形式)をつくります。また「閲覧用・公開用」のデジタルファクシミリ(約120〜200dpi, sRGB, JPEG圧縮)は、「中間画像ファイル」を半分の解像度に変換した後、アンシャープマスク処理、カラープロファイル変換、文字列の書き込みを経て完成します(画像参照)。


貴重書デジタルファクシミリ用画像の制作手順


スキャナのコントロール用アプリケーションの画面例(imacon社ColorFlex1.9.5)4×5判のフィルムから低解像度のプレスキャンによって得られたプレビュー画像が表示されている

貴重書のデジタル化にとって、最も大事な点は何ですか。

樫村──1冊分すべてのページが、できる限り同じ条件のもとでデジタル化されるようにすることです。具体的には、ページ面を平面に近い状態に置き、ページ全体が均一な明るさになるように照らし、傾きなく真正面から、全ページを同じ拡大率で撮影するようにします。研究に使うための高品質なデジタル画像を作り出し、維持することでもあります。この高品質というものが何であるのかを簡単には表現できないのですが、本物の代わりとして用いられるだけの「信頼のおける画像」と言えるものです。

その「信頼のおける画像」とは、画像の真正性と同義と思われますが、どのように表示すればいいのでしょうか。

樫村──そこが一番難しいところかもしれませんね。デジタル画像の評価に関する諸問題とあわせて、今後議論していく必要があると思います。

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