デジタルアーカイブスタディ

慶應義塾大学 樫村雅章氏に聞く:『貴重書デジタルアーカイブの実践技法────HUMIプロジェクトの実例に学ぶ』出版について

影山幸一

2010年11月15日号

解像度とカラーマネジメント

解像度についての考え方を聞かせてください。

樫村──画像の解像度とは、どれだけ精細に画像が表現されているかの目安となる尺度です。大きく分けて2つあります。ひとつは、文字通り「像」が「解」されている度合い、つまり1枚のデジタル画像がどれくらい細かい分割によって表現されているのかを、その分割数、すなわち、画像を構成する画素の総数で示すもので、「絶対解像度」と呼ばれています。もうひとつは、デジタル画像が実世界のある平面と対応づけられる場合の画素の密度、つまり、その平面の一定の長さあたりにいくつの画素が並ぶものとして画像が表現されているのかを示したもの。「相対解像度」と呼ばれ、平面資料からの画像入力や印刷の際に用いられる尺度で、単位として一般は1インチあたりの画素数dpi(dot per inch)が用いられます。単に解像度といった場合はこの相対解像度を指すことが多く、HUMIプロジェクトでもこちらを用いています。画像上でのサイズI(画素)=実寸S(inch)×相対解像度R(dpi)、あるいはS=I/Rという関係があります。混乱する場合には、画像上のサイズと実寸との間の関係を、デジタル画像がつくられる、すなわち入力される際の入力解像度と、デジタル画像が表示あるいは印刷される、すなわち出力される際の出力解像度とに分けて考えてやると、整理がつきやすいと思います。書物を撮影する時のページ表面における相対解像度を表面解像度と呼んでいますが、デジタルファクシミリ用画像の撮影では、1冊の全ページにわたり表面解像度が揃うよう配慮します。

カラープロファイルについて考慮した点は何ですか。

樫村──正確な色情報の保存のために、「ICCカラープロファイル」を利用しています。画像入力にあたり、デジタル化に用いる装置の特性を反映した入力プロファイル(カスタムプロファイル)を作成しますが、その場合実世界の物の色を、デバイスインディペンデントカラーとして測定するために、測色器を使います。また、カラープロファイルの作成対象となる機器で扱われる画素値と、測色データとの対応に基づいて、カラープロファイルを生成する特別なアプリケーション(X-Rite社ProfileMakerなど)が必要となります。デジタルカメラなどの入力プロファイルの作成では、数十から数百のさまざまな色のパッチからなる標準色票(カラーチャート)を撮影して得た画像と、標準色票の各パッチから測色器によって得られた色のデータを用います。カラープロファイルの品質は、画像の色情報の正確さに直接影響するため、作成のための手順を正確に進めることが重要だと思います(画像参照)。


色器(分光光度計)を用いた標準色票のパッチの測色(X-Rite社i1 Proによる)左:パソコンに分光光度計をUSBケーブルで接続し、測色専用のアプリケーションを起動して、ひとつずつ順番にパッチを測色していく。右:X-Rite社の分光光度計i1 Pro


カラープロファイル作成用アプリケーションの画面例(X-Rite社ProfileMaker5.0.8)基準データには、標準色票の各パッチを測色して得られた分光光度のデータがテキスト形式で保存されたファイルを指定する。撮影したテストチャート(標準色票)のデータとしては、TIFFやJPEGの画像ファイルを指定する。この例では、シーンの光源には標準光源のひとつであるD50を指定し、彩度やコントラストの強度などをしない、色再現を重視した設定でカラープロファイルを作成しようとしている

色深度の目安はどのくらいですか。

樫村──色表現の豊かさにつながる色深度は、パソコンを用いた目視による閲覧ではRGB各8ビット(24ビット)で十分な場合が多いですが、保存や研究利用を目的とする場合には、RGB各16ビット(48ビット)の画像としています。

装飾の金色についてはどのように配慮したのですか。

樫村──デジタルファクシミリ用画像の撮影のための照明では、ページの表面に光源からの直接反射が出ないようにしているため、金色の装飾部分も光源からの光の反射による輝きが出にくくなります。輝きを持つ色材による装飾部分を光らせるための、特別な照明方法によって別途撮影を行った例もありますが、通常のデジタルファクシミリ用の画像撮影では、ページ全体にわたる照明条件が良好となることを重視しました(画像参照)。


本の天の方向(画像中の上の方向)から1灯のみのライティングで近接撮影した米国ピアポント・モーガン図書館所蔵のグーテンベルク聖書〔旧約聖書本〕第477葉裏の輝きを持つ色材による装飾部分

画像ファイル形式は何ですか。

樫村──主にTIFF形式とJPEG形式です。JPEG2000形式は、JPEG形式と互換性がないことや、デジタルカメラや主要なWebブラウザでの対応が進んでいないことなどから利用してきませんでした。

メタデータはどのようにしていますか。

樫村──Exif(Exchangeable Image File Format)★2の情報に加え、資料名や入力解像度の値、画像作成者、著作権情報などの基本情報を、Adobe System社の画像処理ソフトウェアPhotoshopのファイル情報の編集機能(XMP標準規格と呼ばれる、XMLをベースとする規格にのっとった形式)を用いて付加し、TIFFファイルに埋め込んでいます。管理用のメタデータは、別途、表計算ソフトのワークシートなどに整理して保管しています。

★2──デジタルカメラ用の画像ファイルの規格。日本電子工業振興協会(JEIDA)によって標準化された画像フォーマットで、TIFF形式とJPEG形式をベースにカメラの機種、撮影日時、絞りなどの情報を画像自身に埋め込んで記録できる。

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