アートプロジェクト探訪

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2009──10年を経て、どこへ向かうか

白坂由里(美術ライター)2009年09月15日号

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 2009年3月にレポートした「大地の芸術祭」。今年で4回目となる「<大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2009」(2009年7月26日〜9月13日)は、前回の約35万人を上回る鑑賞者を動員し、大盛況のうちに幕を閉じた。高速道路料金の値下げや大河ドラマ「天地人」効果なども手伝ってGWから観光客でにぎわい、6月には女性誌2誌で「大地の芸術祭」が表紙を飾るなど「アートの旅」という切り口が客層の広がりをもたらした。2006年には地域固有の魅力創出や国内外の交流など、新しい旅の提案としても評価されて「第2回JTB交流文化賞」を受賞し、今回はパックツアーやシャトルバスも強化されていた。1日最高入場者数は、少ない地域でも100人を超え、田島征三《鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館》やクリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマン《最後の教室》では1作品で1,000人をゆうに超えた。


農舞台方向の景色を見ながら、朝食をとる若者たち


住民が名画に扮した、大成哲雄+竹内美紀子《上鰕池名画館》


田島征三《鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館》

 地域住民においては、作品制作への参加や作品管理のなかで、より能動的な姿が見られるようになった。公式版を補うより詳しいマップや案内板の制作、各地でおもてなし所が設けられた。冷やした夏野菜を旅人にくれるような土地柄でもあり、今回はそれを意識的に、作品の脇に野菜や特産品の販売所を設けるところもあった。小荒戸集落では、区長の発案でキジマ真紀やペルラ・クラウセとの協同制作の様子を写真展示。越後妻有地域ではよく見かける「径庭」も手がかけられ、作品へ向かう坂道がマリーゴールドで彩られた。下条地域では、女衆達が切り盛りする《うぶすなの家》が今年も繁盛した。「人が大勢来てくれることをただ喜んでいるだけではだめだ」と、自分なりの作品説明やおもてなしを考える人もいる。地元の協力体制には、10年前、芸術祭に対する反対や無関心な人々も多かったことを思うと、時の流れを感じる。


小荒戸集落、マリーゴールドの径庭(左)とおもてなし所(右)

松澤有子作品の制作を手伝う赤倉集落の人

 私は2000年の第1回目に、こへび隊の活動を少し手伝い、3回目と今回はガイドブックを編集・執筆した。前回は空家掃除を手伝ってすすやほこりにまみれて壁剥がしなどもした。すべては取材の一環であり、プロジェクトやまちおこしそのものよりも、アートに初めて接したときに人はどんな言葉を発するのか、都市では聞けない反応に触れることに関心があった。アートをどう言葉にすればいいのか、「一に戻るために行く」ような場所であった。

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白坂由里

『ぴあ』編集部を経て、アートライター。『美術手帖』『マリソル』『SPUR』などに執筆。共著に『別冊太陽 ディック・ブルーナ』(平凡社、201...

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