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メゾン・デ・ミュゼ・ド・フランス
 児島やよい

アーティスト・イン・空き家2002
 
アーティスト・イン・空き家2002
 


アーティスト・イン・空き家2002






アーティスト・イン・空き家2002
   最近、美術館や博物館を見学する楽しみのひとつに、併設のレストラン、カフェで過ごす時間や、ミュージアムショップでのショッピングを加える人が増えてきた。有名店がレストランの経営に乗り出したり、ショップでもミュージアムグッズのアイテムを充実させる工夫をしている成果だろう。でも正直、フランスやアメリカの美術館と比べればまだまだ、規模も内容も貧弱と言わざるを得ない。
 日本で美術館にあまり足を運ばない人も、パリに行けば必ずといっていいほどルーヴル美術館を見学する。それは、フランスという国がアートを重要な観光資源と位置付け、美術館ビジネスを産業として育成してきたからだと言えるだろう。美術館のコレクションや企画展の内容はもちろんのことだが、ただ絵や彫刻を鑑賞する場でなく、カフェで感想を語らったり、作品に関わる書物を探したり、絵葉書やレプリカ、その他作品をグッズとして自分の日常生活に持ち帰ること、すべてを通して「美術館に行くこと」が広く人々の生活に根付くよう、努力してきたということだ。
 さて、フランスの美術館のそんな側面を知ることのできる施設が、銀座の一角に出現した。
 ガラス張りの明るいビルのウィンドウ。温かみのある動物が人気の彫刻家、フランソワ・ポンポン作の白熊のレプリカや、マリー=アントワネットが肖像画の中で付けている宝飾品を再現したアクセサリーなどがディスプレイされており、目を奪われる。ルーヴル美術館やロダン美術館でしか手に入らない、限定のミュージアムグッズが並ぶメゾン・デ・ミュゼ・ド・フランスは、さながらプチ・ルーヴル。フランス文化の香りに満ちた空間となっている。
 メゾン・デ・ミュゼ・ド・フランスとは、フランスの美術館や博物館の紹介を通して、フランス文化・芸術に親しむため、フランス国立美術館連合(RMN)日本法人と大日本印刷株式会社(DNP)が提携・設立した機関である。1998年から、RMN傘下の美術館の所蔵作品をデジタルアーカイヴ化する「RMNイメージ・アーカイヴ」をRMNと共同で展開してきたDNPが、世界初の美術館ビジネス・アンテナショップとしてオープンさせることとなった。ギンザ・グラフィック・ギャラリーのすぐ裏手にあるビルを改修し、小さいながらもシンプルな内装で、広がりを感じさせる建物だ。1階から3階は展示・販売ギャラリー、地下1階はインフォメーションセンターという構成になっている。RMNには1万点ほどのミュージアム・グッズ、複製彫刻、銅版画などがあるが、その中からルーヴル美術館のショップのラインナップを中心に、選りすぐったアイテムがここ、メゾン・デ・ミュゼ・ド・フランスで買えるわけだ。
 では、実際にどんなアイテムが扱われているか、紹介していこう。
 1階はアクセサリー中心のギフト・アイテムが並んでいる。アクセサリーには出土品をアレンジしたものと、絵画に描かれたものを再現したものがある。たとえば有名な、マネの描いたヌード「オランピア」。魅惑的な彼女が唯一身に付けているペンダントヘッドもあれば、ナポレオン妃ジョゼフィーヌが付けていたネックレスも手に入るのだ。素材も純金からメッキまでさまざまで、手ごろなものでは1800円のブローチから、40万円台の純金のネックレスまである。奥様へのプレゼントにと男性が買い求めていくことも多いようだが、もちろん、女性が自分の好きな絵画や出土品から、気に入ったアクセサリーを探すのはとても楽しい。
 2階、3階はそれぞれ複製彫刻と銅版画を展示・販売するギャラリーとなっている。複製彫刻は「ムラージュ」と呼ばれ、1794年にルーヴル美術館の中にムラージュ工房が設立されて以来、高度な技術を持つ職人が彫刻作品から直接型取りして複製を制作してきた。フランスに限らず世界中の美術館の名品を復刻し続けてきたため、工房が所蔵する鋳型は6千点に及び、それ自体が貴重なコレクションとなっているほどである。
 2階フロアでは樹脂製で8千円くらいの小型の彫刻から、本格的なブロンズ彫刻(5万〜40万円程度)が手にとって見られる。自分のデスクに飾るなら、ルーヴルの象徴ともいえるサモトラケのニケ像や、ユーモラスなたたずまいのエジプトの青いカバなどが良いかもしれない。ひととき、悠久の歴史に思いを馳せる、そんな余裕ができそうだ。
 その他食器やスカーフ、ネクタイなどもあり、マリー=アントワネットが使っていたのと同じ花柄のリモージュ製食器や、中世(クリュニー美術館)の動物柄タイなど、1万円前後からそろっている。
 さて、3階フロアで「カルコグラフィー」と呼ばれる銅版画を見よう。こちらもルーヴル美術館カルコグラフィー工房で、300年前から作られている1万4千枚の原版をそのまま使い、職人が丁寧に1枚ずつ刷り上げているものだ。総数では膨大な点数にのぼるとはいえ、1日20枚くらいしか作られないので大変貴重なものである。ルイ14世時代に発達したカルコグラフィーは、政治・経済・文化の発展を国内外に広く伝える目的から、当時のパリの地図や、宮廷の様子がわかる絵も多く、興味深い。また名画の複製やボタニカル・アートも、手彩色で美しい。価格は2万円弱から、額装も頼める。
 それぞれのフロアで70点ほどのアイテムが展示されているが、「ルーヴルのショップで買い逃したあの品が欲しい」など、カタログで指定し、取り寄せることも可能。ただし時間はかなりかかるとのこと。
 こうして見ていると楽しいのだが、やっぱり実際にパリに行き、ルーヴルのショップで買おう!とか、今話題になっている展覧会を見に行こう!と思う人も少なくないはずだ。そこで、地下1階のインフォメーション・センターが役に立つ。フランスの美術館で開催された展覧会のカタログや美術館関係の書籍が約400冊、ビデオも閲覧できる。(貸し出しはしていない。)インターネットの端末でフランスの美術館にアクセスすることも可能だ。RMNのスタッフが常駐しているので、最新の美術館情報が知りたいとき、アクセスのしかたがわからないとき、相談に乗ってもらうこともできる。今後はルーヴル美術館の入場券前売りなども検討しているそうで(現地の入場券売り場は混んでいて、意外にとても時間がかかる)、フランスで美術館巡りをする計画の人は、ぜひ事前予習として行ってみることをお薦めする。また、すでにフランスに行ってきた!という人にも、復習に最適だし、フランスの美術に興味のあるどんな人にも、窓口として手がかりを引き出して欲しいものだ。
 今後、エコール・デュ・ルーヴルと提携し、日本にいながらにしてルーヴルのカリキュラムを受講することができたり、留学のための情報を得たりといった、美術史教育のプログラムを充実させていくことを検討中。より広く、より深く、フランスの文化や美術館ビジネスについて知識を深める人が増えていくことで、ひいては日本の美術館ビジネスを成長、活性化させることにつながるだろう。
 メゾン・デ・ミュゼ・ド・フランスには、「擬似ルーヴル・ショップ体験」に留まらない、広がりのある活動や体験を期待し、注目したいものである。

メゾン・デ・ミュゼ・ド・フランス
・営業時間 11:00〜19:00
・住所:東京都中央区銀座7−7−4 DNP銀座アネックス
・Tel:03-3574-2380、Fax:03-3574-2381
・e-mail:info@maison-musees.org
(こじま・やよい/キュレーター、コーディネーター、慶應義塾大学非常勤講師)



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