DNP Museum Information Japan - artscape
Museum Information Japan
Exhibition Information Japan
Recommendations
Exhibition Reviews
HOME
欧米の美術館でのマイノリティへの対応

 地域に開かれた美術館とは、子どもに限らず、マイノリティ(社会的弱者)も気楽に活用できる館ではないかという考えが広まってきたのは、比較的近年のことです。当研究会では以前、研究会誌で視覚障害者に対する教育活動を特集しましたが、今回より5回にわたって、聴覚障害者、精神障害者、エスニック・マイノリティ等、様々なマイノリティに対する欧米の美術館の取り組みを紹介したいと思います。
第一回目の今回は、1994年の秋に開校した、ニューヨーク・マンハッタンのニューヨーク市ミュージアム・スクール(NYCMS)におけるエスニック・マイノリティへの取り組みを紹介します。

(1) 二ューヨーク市ミュージアム・スクールにおけるエスニック・マイノリティの取り組み
 NYCMSは、従来の美術館・博物館と学校との連繋という枠には納まらない、これら二つの教育機関が緊密に協力し合って実践している画期的な事業である。この学校は、ニューヨーク市立学校のコミュニティ・スクール校区2と、ブルックリン美術館、アメリカ自然史博物館、マンハッタン・チルドレンズ・ミュージアム、そしてジューイッシュ・ミュージアムによって企画・立案された。ホームベースとなる場所は、校区2内の2つのコミュニティ・スクールと、チェルシー地区のO・ヘンリー学習センターで、6年生から12年生まで最大で420人の生徒を収容することが可能だ。
 運営資金は大部分をニューヨーク市が調達し、備品や職員の確保等はニューヨーク州や中央政府が補完した。一方、美術館・博物館は、様々なコレクションや資料の他に、熱心なエデュケーターやインターン、新設した教室や研究所等を提供している。

 NYCSMは、美術館・博物館と学校双方の専門家が協力し合って、独自のカリキュラムを考案し・実施している。学習環境としては、学校と美術館・博物館が並行して用いられ、生徒たちは各教科の教育を厳格に受ける一方で、美術館・博物館の広範なコレクションを活用して、学際的な学習も行なうことになる。

 学際的な授業は、各学年で年に4単位実施される。生徒は8週間に亘り、一つの美術館・博物館に通って勉強する(6週間は個人および共同研究、1週間は発表、1週間は考察)。生徒は、各週最長3日まで、登録した美術館・博物館で過ごす。残りの日は、学校で教室のほうが適している教科内容を学習したり、生徒同士のコミュニケーションの感覚を養ったりする。
 例えば学校では、6年生の社会科の先生が、古代エジプトの地形上の特質がどう文明に寄与したかについて焦点を当てた授業をする。その後、ブルックリン美術館に出かけた先生と生徒たちは、エデュケーターの指導の下でエジプト美術について勉強し、使用されている素材や描かれている図像を調べて、エジプトの自然環境に関する様々な証拠を集める。

 同様に7年生は、教室でのDNAについての授業で、進化の複雑さを理解した後で、アメリカ自然史博物館の有史前の哺乳類・恐竜ホールにおいて、種の進化を決定する化石と骨を分析する。8年生でアメリカ移民の勉強をする際には、文学の時間に歴史小説を読んだ後、ジュ−イッシュ・ミュージアムのラジオ放送のコレクションから、関連ある放送を聴く。

 NYCMSのカリキュラムにおいて、博物館学習の構成要素は以下のようにまとめられる。
* 物を長い間注意深く観察する
* 何が実際に見えたかを口述したり、描いたり、スケッチしたりする
* 観察した事項を既知の知識や他の物体と関連付ける
* 疑問を持つ
* 調査研究を行なう
* 発表する
* 熟考し、批評する

 こうした独自のカリキュラムを展開するNYCMSが教育対象としているのは、決して優秀な生徒ではない。この学校が設立される背景には‘90年代に始まった教育改革がある。上述した4館が、ニューヨーク市立中学校の進歩的な校長たちによる、ティーンエイジの生徒のニーズに対応する、小規模な地域に根ざした学校づくりに協力して欲しいという要請に応えて実現させたのが、このNYCMSである。したがって、学力的に多様であるばかりでなく、人種的にも多様な生徒が選ばれている。
1998年の時点で、アフリカ系の生徒の占める割合は24.9%、アジア系は8.4%、ヨーロッパ系は36.0%、ラテン系は21.8%、ネイティブ・アメリカンは0.4%、そして混血が8.4%となっていた。また、学力的には7.0%がそれまで特殊学級に属していた生徒である。
このように増加するエスニック・マイノリティの生徒たちを、ヨーロッパ系アメリカ人と同一環境で教育することで、相互理解を生みだそうという傾向は、欧米の美術館・博物館で近年顕著になってきている。
[佐藤厚子]

ArtShopArchivesArt LinksArt Words
prev up next
E-mail: nmp@icc.dnp.co.jp
DAI NIPPON PRINTING Co., Ltd. 2002
アートスケープ/artscape は、大日本印刷株式会社の登録商標です。