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「厄介者のミュージアム」にならないために
歌田明弘
 
美術館IT情報
連載/歌田明弘
 
長野県が作る予定の「子ども未来センター」をめぐる議論はミュージアムというものをあらためて考えさせられる。
 「子ども未来センター」は、6年前に長野県の中期総合計画のひとつとして立ち上がり、1999年には、展示設計業者や施設設計業者も決まったが、翌年の選挙で就任した田中康夫新知事が計画の見直しを発表したものだ。
 見直すことにはなったが、作らないわけではなく、昨年春以来、見直しのための委員会が作られ、検討が重ねられている。デザイン評論家の柏木博氏を委員長として、養老孟司氏、黒崎政男氏、村上陽一郎氏、宮迫千鶴氏などの豪華メンバーからなる有識者会議という形で検討がはじまり、現在は地元の人々が入るなど多少のメンバーの異動があって拡大委員会になり、月に一度ほどのペースで会議がもたれている。そして、ネットでもその議事録が公開されている
 1回2時間ほどの議事録はかなりの分量になっているが、地方自治体に次々と出現したミュージアムがいったいどのようなもので、どういった問題点を抱えているかが浮きぼりになっている。ミュージアムにかかわる人々には参考になるにちがいない。 
 田中知事は見直しを命じたものの、当初の案に問題があったと見ているわけではないらしい。広告代理店や業者がかかわってきて当初の案がなおざりにされてしまったことが問題だと、委員会に出席して説明している。建物を作ることが自己目的化されてしまい、これまでの公共事業のあり方に異を唱えている新知事としては認めるわけにはいかないということなのだろう。直接的な利害のない文化人による再検討がおこなわれることになった。
 ミュージアムはそもそも福祉なのか、それとも事業なのか。営利事業でないとしても、巨額な赤字が許されるのか。ミュージアム建設についての経済的な側面も、この委員会は議論している。この種のミュージアムは当初の建設費は出るものの、維持のためのお金の手当が十分でなく、メンテナンスやリニューアルなどのランニングコストが不足し行き詰まるケースが多い。単年度予算でミュージアムを運営しなければならず、ファンドを組むことができないミュージアム行政の欠陥が明らかにされている。ボランティアの位置づけとか、集中型の展示か移動式の展示かとか、「子ども未来センター」という名称ではあるが具体的に何歳の子どもたちを対象にするのかといった具体的な問題もテーマになっている。
 また、当初のコンセプトが活かされることなくミュージアムができてしまうことが多く、そうならないためにはどうすればいいか。そのためには、プランニングをした人々が最後までかかわることが必要だが、その土地に住んでいない人々がどこまでできるのか、地元の人々に橋渡しをすることはできないのか、といったことも話し合われている。
 さらに、サイエンス・ミュージアムを作るのが当初からの案だが、そもそもサイエンスとは何かといった根源的な問題も論じられている。
 委員たち自身が言うように、このような形で議論が進みミュージアムができていくのは珍しいことだろうが、なにより画期的なのは、こうした議論がすべてネットで公開されていることだろう。
 文化人でなくても同じようなことは議論できるだろうし、ミュージアム作りとか行政のプロたちのほうがむしろ専門的で直接的な議論ができたかもしれない。しかし、巨額の赤字を生みかねないプロジェクトに必要なのは、読まれうる議論、読むにたる議論をし、さらにそれを記録として残し、誰の目にも触れられるようにしておくことだろう。
 国も地方も財政赤字が深刻になる一方の現在、ミュージアムは大きな「荷物」のように思われかねない。しかし、そもそもの存在理由があったはずだし、それは、赤字を正当化するものであるかもしれない。だが、あとになってみれば、誰がどんな思惑で作ったのかよくわからず、箱モノを造るための言い訳でしかなかったように思われるばかりか、最悪なことには往々にしてまさにそのとおりでしかないということでは、厄介者扱いされ、閉館においこまれても仕方がない。何の目的で、どれぐらいの赤字(というより行政による出費)なら正当化されるのかについてきちんと議論した証しを残し、さらには実際にその議論が活かされている形跡をしめすことが、ミュージアムを存続させるには必須であり、また、ネットはそのための格好のメディアでもある。それは税金を作ったプロジェクトについて言えるだけでなく、企業によるものであっても同じだろう。


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