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ミュージアムのカタログを電子書籍に!
歌田明弘 |
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出版物の種類はいろいろあるが、ミュージアムのカタログというのは買うのにもっとも厄介な本のひとつだ。 いい紙を使っていることが多いので、重たくてかさばる。大きさも不揃いだから、本棚にしまっておきにくい。すでにあふれ出ている本棚が頭によぎって、買うのを躊躇する。ほんとうにあとで開いてみるかな、とも思う。買ってはみたもののそれっきりということもけっこうある。値段も安いとはいえない。大きすぎて本棚に入れられず、どこかにしまって所在がわからなくなってしまったりする。 で、買うのを見合わせると、あとで後悔することになる。企画展のカタログはいったん売り切れれば、再版される可能性がほとんどない。地元のミュージアムのものを除けば、街の図書館で見ることもまずできない。部数が限られているから、古本屋で手に入れることも容易ではない。ミュージアムの企画展のカタログは、ミュージアム に行ったまさにそのとき買っておかなければ、なかなか入手できなくなる。 いうまでもないが、企画展のカタログは出版物としてきわめてすぐれたものだ。本になっていることの少ないテーマについても、雑誌の特集に勝るとも劣らない手間ひまをかけて作られている。専門家による論考に加えて、年表や背景説明、海外のものも含めた参考文献一覧まで、資料性も抜群だ。書店での置き場所に困る判型では流通段階で不利になるといったことを心配する必要がないから、図版が引き立つようにも作られている。 にもかからず、カタログの生命ははかない。かかっている労力と、出版物としてのはかなさを思い比べると、ほんとうにため息が出る。人類の文化的損失、そんな大げ さなことさえ思ってしまう。 すぐれた出版物であるミュージアムのカタログは、こうした悲運にいつまでも甘んじていなければならないのか。 そんなことはないだろう。 電子書籍にしたらどうだろうか。 電子書籍はなかなか普及しないが、本のジャンルによって、話はまったく異なっている。百科事典などは、デジタル百科に移行してしまい、もはや紙の百科事典は出しにくい状況になってしまった。一般に、辞典類はデジタル書籍に向いていた。 ミュージアムのカタログは、かさばって保管に厄介だが、資料性があり、調べものをはじめたときには是非ほしくなる。やはり電子化してネットでロングセールするのにふさわしい。よく言われるように、電子書籍ならば、紙代や印刷代、流通経費がかからず安くでき、絶版にする必要がない。買うほうもいつでも必要なときに購入でき るし、デジタル電子書籍ならば、場所をとらず、保存するのも容易だ。 カタログの電子化はいいことずくめのようだが、図版使用の権利のクリアなどはさしあたりネックになるかもしれない。電子書籍化した場合にコピー・プロテクトがきちんとなされるかを懸念してデジタル化の同意を得られない、ということもあるだろう。 しかし、これは技術的な解決が可能である。コピー・プロテクトについての信頼性が増し、さらにデジタル化への社会的なコンセンサスがだんだんに得られていけば、より永続的な生命を持つ電子化されたカタログが一般化していくのではないだろうか。 電子書籍は、紙の本のように読みやすいとはとても言えない現状だが、ハード、ソフトのメーカー、そして出版社は、電子書籍への取り組みを活発化させている。カタログの電子書籍が一般化するための条件は少しずつととのってきている。 次回は、このところ目につく具体的な動きをとりあげてみたい。 [うただ あきひろ] |
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