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美のデジタルアーカイブ〈10〉
3次元形状計測された世界最大規模の
「東大寺盧舎那大仏」
影山幸一
 
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連載/歌田明弘
連載/影山幸一

 像高14.98m、世界最大の鋳造仏像は、奈良県にある華厳宗大本山東大寺の本尊、国宝盧舎那[るしゃな]大仏(通称、奈良大仏、毘盧遮那仏[びるしゃなぶつ]とも呼ぶ。以下、奈良大仏と表記)である。智恵と慈悲の光明を広くすべてにわたり照らして、宇宙のあらゆるものを救おうとされる仏と伝えられている。国分寺として建立された東大寺は、天下泰平・万民豊楽を祈願する道場と仏教の教理を研究し学僧を養成する八宗兼学(法相宗、華厳宗、律宗、三論宗、倶舎宗、成実宗、天台宗、真言宗)の学問寺であり、開山は良弁[ろうべん]僧正。奈良時代の聖武天皇が、華厳経と御仏に感動して理想仏の理想国家を日本に実現しようと、青銅による奈良大仏の鋳造を発願され、天平勝宝4年(752)4月に3年間をかけた造立工事が完成し、盛大な開眼供養会を執り行なった。昨年の2002年は開眼から1250年にあたり、各種の催しが行われた。平成10年(1998)10月には東大寺全体がユネスコの世界遺産に認定されている。

 東大寺中性院の北河原公敬[こうけい]住職は、奈良大仏から発信されているものは「人間は一人ひとりの存在ばかりでなく、あらゆるものに関わりをもって生き生かされており、すべてを救おうとされる盧舎那[るしゃな]大仏の光明に包まれている」というメッセージであると説く。また、奈良大仏の美的魅力について、大仏殿(金堂)の中で下から見上げるだけではなく、盂蘭盆の最終日・8月15日夜(万灯供養会[まんとうくようえ])と大晦日の夜だけに開く桟唐戸[さんからと](観相窓[かんそうまど]ともいう)を通して、奈良大仏と目線が合ったときは、広大無辺を実感すると言う。仏教美術を把握するには、仏教思想の理解と体験が不可欠であろう。その中心の存在である本尊は物体として形をなすものであるが、形あるものが無くなるという物理的な変化に従ってばかりではいられない。デジタルアーカイブにより偉大な造立物は、修復、復元され、いつでも再現されるなど可能性を広げていく。

 2000年10月の1週間をかけて奈良大仏の3次元形状計測(以下、3次元計測)が行われた。計測にあたったのは、東京大学生産技術研究所池内研究室の7・8名のスタッフである。この事業は平成12年度より5か年計画(予算1億5千万円/年)で始まった科学技術振興事業団(JST)のCRESTプロジェクト(高度メディア社会の生活情報技術)による支援を受けて実施されている。文化遺産の高度メディアコンテンツ化のための自動化手法を研究開発するプロジェクトである。本プロジェクトは、文化遺産の幾何情報取得法の開発、文化遺産の光学情報取得法の開発、文化遺産をとりまく環境情報取得法の開発、文化遺産(特に無形文化財)時系列情報取得法の開発といった4要素技術開発と文化遺産のメディアコンテンツ作りという5つの切り口で、東京大学池内研究室、岡山大学尺長研究室、埼玉大学久野研究室、電気通信大学木村研究室、東京文化財研究所が共同で推進している。
大仏頭部3次元座標郡データ
▲「レンジセンサーによる計測で取得した奈良大仏頭部の3次元座標点群データ」
東京大学生産技術研究所池内研究室提供

 3次元計測は、実体物の観察に基づいた仮想現実モデルを効率的に作成するMFR(Modeling-From-Reality)の概念のもと、1.メッシュ生成(スキャニング) 2.位置合わせ 3.統合という3段階の手法で進められた。以下、実際に3次元計測にあたった、東京大学池内研究室池内克史教授と池内研究室に勤務する中澤篤志科学技術振興事業団研究員に当時の様子を伺った。3次元計測は奈良大仏拝観者を避けて、朝8時から10時と夕方5時から9時までの1日合計6時間ほどの作業であった。計測自体は設定を終えれば一計測20〜30秒であるが、奈良大仏を取囲む広い空間を、観測点を探しながら40Kgほどの重い機材を移動して設置するまでの労力がかかる。計測もれのあった部分は2001年5月に追加計測し、データを補完した。一観測点あたり数枚、奈良大仏全体で134枚の距離画像を取得した。総計で156万点,310万ポリゴン、50MBのデータを得、解像度は1ドットが平均で大仏の2cm四方に相当する。計測に採用した機械は、米国Cyra Technology社のCyrax2400(現在はLeica Geosystems社がCyrax2500を取扱っている)という高精度レーザーレンジセンサー(以下、レンジセンサー)で、建築など大型の対象物を緑色レーザー光線でスキャンし、得られる点群の3次元座標データから3次元CADモデルを生成する機種とシステムである。タイムオブフライト法(照射したレーザー光線が測定対象物にあたり、その反射光が戻ってくるまでの時間と強弱を測定し、距離と反射率を算出するもの)のため、対象物に接触せずに±2mmの精度でモデリングが可能である。最大100mの測定が可能だが、鏡面や黒い対象物の計測には向いていない。その他、ノートPC(DELL Inspiron)一台と東京大学池内研究室が独自に製作したPC一台、テクスチャ画像を撮影するためのKodakデジタルカメラD1を現場に持ち込んでいる。

 奈良大仏の周囲を上方からも含め複数箇所から取得した距離画像の位置合わせは、同時位置合わせ法(すべての距離画像を一度に位置合わせすることで誤差の蓄積を回避する方法)を基本とし、対応成分として点ベースの手法(距離画像を構成する3次元の点座標を直接用いるもの)を用い、点と点の距離を誤差基準として用いる位置合わせ手法を開発し実行した。統合処理は、Dual PentiumIII 800MHz,1GBメモリを有するPC 8台(CPU数は16)のPCクラスタを構築し、開発した統合アルゴリズムをPCクラスタ上で動作するように並列化して行った。レンジセンサーで取得したデータ点をつなぎ合わせて、三角形からなるポリゴンデータに変換して、部分データを製作する。その後、部分データを統合するために開発した自動的に位置合わせをする統合アルゴリズムによって、3次元モデルを作成。この統合してできたデジタル大仏は、パソコン上で高さや表面積などが測定できる。また、反射率のパターン情報から、錆びや劣化を推定し修復や予防対策に利用することが考えられる。さらにCGを応用することでリアリティーのあるシミュレーションが展開できる。データ保存はレンジデータに関しては、Cyraxの形式とPLYという形式、デジタルカメラによるカラー画像に関してはJPEG形式で、東京大学生産技術研究所のサーバーに保存している。

 3次元計測画像に関する課題は著作権の問題と大規模対象物などの上部からの計測である。著作権に関しては、写真と異なり不明確な状況にある。写真と同様と考えると計測者(撮影者)に著作権があるが、計測では文化財保持者の了解や協力を元に行っているうえ、文化財保持者に肖像権や所有権が存在することから、完全に計測者が権利を主張できるかどうか、また創造性の点からも写真とは異なるので判断が難しい。中澤研究員は取得したデータを他の方に寄与する場合でも、必ず文化財保持者の了解を得ることにしていると言う。一方、大規模対象物の上部計測はレンジセンサーで捕らえられない場合がある。池内教授はレンジセンサーを気球に載せて大規模な遺跡などを空中から計測する方法を検討していると言う。

 計測アーカイブは見えの画像や映像では得られない、正確なデータを取得でき記録・保存ができる。色彩計測や対象物の素材計測も研究が進められ、より的確にかつ精確に自動計測化されることが期待されている。デジタルアーカイブにとって、高精細画像や映像のみが大事なのではない。正確なデータが多種あることが求められる。デジタルアーカイブはデータベースそのものと思われる場合があるが、基本は実物からの正確なデータを記録することにある。3次元計測をはじめ、X線・赤外線撮影などによる画像の取得や超音波計測による素材データ収集などは、デジタルデータとして必要な取得項目であろう。

 東大寺では現在、デジタル閲覧機器の境内への設置やインターネットでの奈良大仏高精細画像の公開など文化財のデジタル化推進については、複製の懸念と法の未整備に先行き見通しのついた段階で実施するとし、社会状況を静観しているところであるという。3次元計測で得た精緻なデータもCD-ROMで保管され現在は公開されていない。文化財の記録を永続的に保存する観点からは、主体的にデジタルアーカイブを実現されるよう望みたい。奈良大仏は両手は桃山時代、頭部は江戸時代と補修を重ねて創建当時の原型を完全には留めてはいないが、人々の信仰を集めて1,000年以上の歴史を経てきた。その雄姿に変わりはなく、現在もおおらかに不動の姿で人々を見守り続けている。この悠久の時を経てきた日本の奈良大仏を人類の記憶として残すうえでも、先端的3次元計測により精確に記録がなされたことは次世代への贈物となった。加えて関連画像・映像と高精細な多種デジタルデータが蓄積され、将来は誰もが自由に見られるデジタル大仏になればと願う。

■東大寺盧舎那大仏3次元形状計測デジタルアーカイブデータ
■メッシュ生成
(スキャニング)
 
3次元形状計測器 Cyrax2400(Cyra Technology社、現Leica Geosystems社)
レーザータイプ 半導体レーザー
レーザークラス Class 2
レーザースポット径 6mm以下(50mまで)
測定レンジ 最大100m
推奨レンジ 1.5〜50m(5%以上の反射率)
スキャニングレート 800ポイント×1スキャン/秒(視野内)
取得距離画像・データ数 134枚、156万点,310万ポリゴン
解像度 平均で1ドットが大仏の2cm四方に相当
モデリング精度 ±2mm
■位置合わせ
方法
同時位置合わせ法
対応成分
点ベースの手法
誤差基準
点と点の距離を誤差基準として用いる位置合わせ手法を開発
■統合
 
システム
Dual PentiumIII 800MHz,1GBメモリを有するPC 8台(CPU数は16)のPCクラスタを構築し、開発した統合アルゴリズムをPCクラスタ上で動作するように並列化
データ容量
50MB
データ保存形式
Cyrax形式とPLY形式、テクスチャ画像(カラーイメージ)はJPEG形式
保存場所・媒体
東京大学生産技術研究所のサーバー、東大寺にあるCD-ROM
  (2003年2月現在)

■参考文献
『文化財のデジタル保存 自動化手法開発プロジェクト 平成13年度 成果報告書』2002.3.9. 東京大学生産技術研究所第3部池内研究室
倉爪 亮、西野 恒、佐川立昌、大石岳史、高瀬 裕、池内克史「The Great Buddha Project――大規模文化遺産のデジタルコンテンツ化」(『情報処理学会シンポジウムシリーズ Vol.2001, No.18 人文科学とコンピュータシンポジウム論文集』2001.12.14, p.133-140.(社)情報処理学会
熊田聡子「鎌倉大仏から広がる、文化遺産の3次元デジタルアーカイブ――最先端レンジセンサー技術を文化財保存に活用」(『デジタルアーカイブ』No.14, 2000, P.4-7. デジタルアーカイブ推進協議会)
『東大寺』2001.10.10. 東大寺

[かげやま こういち]



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