依然として“寡黙”な「コンセプチュアル・アート」が主流を占めていた1970年代後半のニューヨーク、ニュー・ミュージアムで絵画展(1978)を組織したM・タッカーは、この趨勢に背を向けて、J・ブラウンやN・ジェニーなど、具象的なスタイルによって強い自己主張を打ち出すタイプの作家にスポットを当てる方針を打ち出した。タッカーがこの展覧会を「バッド・ペインティング」と名づけたのは、C・グリンバーグの「アヴァンギャルドとキッチュ」を念頭においてのことと推測されるが、表現が極めて饒舌かつ私的であり、観客によって好き嫌いがはっきりと分かれる彼(女)らの作品は、確かに「悪趣味」になぞらえるのがふさわしいかもしれない。アートシーンに対する「後衛」の側からの問題提起と呼ぶべきこの試みには、80年代初頭に出現した「ネオ・エクスプレッショニズム」の先駆と呼ぶべき側面もある。
(暮沢剛巳)
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