一般に美術館学芸員の職務は、1−展覧会の企画・運営/2−コレクションの購入・管理/3−専門領域の研究/4−美術の教育普及と大別されるが、日本の多くの美術館において、この四つの職務がバランスよく保たれているとは到底言えない。現場で働く多くの学芸員が、日々雑用に追われている多忙な現状は、「雑芸員」という比喩でよく知られている通りである。しかし、それでも国公立美術館学芸員の志望者は増加傾向にある。例外はあるにせよ、原則として大学・大学院で美術系の専門教育を受けていることが求められ、また学芸員資格の取得が必須とされるなど、求職にあたって一定の制約を受ける学芸員の志望者が多いのは、公務員としての身分を保証されつつ美術の現場に携われることが魅力的に映るからだろうが、求職者とポストのアンバランスが甚だしい現在、当然のように美術館学芸員への道のりは容易ではない。そして1990年代以降、curatorという英語がそのまま日本語としても用いられるようになったのも、以上の現状と密接な関係がある。とりわけ、美術館に所属せず、フリーランスの立場で展覧会企画を手がけるインディペンデント・キュレーターの出現は、「展覧会企画に専念する」欧米型のキュレータ?と「美術館業務に携わる」日本型の学芸員とが、異質な職業であることを明らかにした。
(暮沢剛巳)
|