フランスの哲学者J・デリダが提示した概念。ひところ「解体=構築」という訳語が用いられたこともあったが、現在は「脱構築」として定着。西洋形而上学全体を視野に収めた概念であり、その批判の射程は哲学のみならず、文学、人文科学、法、政治、芸術、宗教などきわめて多岐にわたる。一般に、デリダの著作活動は1)1960−70年代前半の現象学と構造主義に対する批判の時期。2)1970年代後半−80年代後半の一見文学的なテキストが多く書かれた時期。3)1980年代末以降の法や政治などの問題系が前景化する時期の三つに大別されるが、脱構築というモティーフは初期から一貫して窺われる。もっとも、80年代に盛んにデリダの著作が英訳され、そのインパクトをもっぱら文学テクストの再解釈へと援用したイェール学派の脱構築批評の存在もあって、脱構築を2)の時期の所産とみなす誤解も発生した。P・アイゼンマンら「デコン派」の建築家による、脱構築概念をデザイン原理へと「翻訳」する試みもまたその例外ではありえない。結果的には頓挫してしまったが、アイゼンマンが当のデリダとの共働を試みた「コーラル・ワーク」プロジェクトは、そうした脱構築の「誤読」が、きわめて生産的であったことを物語っている。
(暮沢剛巳)
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