もっとも基本的には、何かの外面を美しくかざること、またはかざりそのものを指すが、この概念の厳密な定義は多くの問題を抱えている。装飾は何らかの事物に付随するものであって、ある「中心」に対する劣等性をその存在のはじめから孕まざるをえない。そのため西欧では、装飾あるいは装飾芸術は美術の下位に置かれてきた。19世紀末になると、工芸運動の隆盛はもちろんのこと、リーグルやヴォリンガーなどの学問的な後押しも加わって、装飾の見直しが進む。そして、ヴォリンガーが「装飾」とほぼ同じ意味で扱った「抽象」こそ、のちの主流をなすのであり、世紀末芸術の価値も抽象表現に結びつく装飾性に求められていった。だが同時にそれは、「装飾」の二つの局面――空間全体に及ぶ組織だった装飾である「decoration」と、限定された表面のかざりとしての「ornament」――
の乖離につながったとも言える。抽象美術の発展にとって、表現の平面化をもたらす「ornamental」な要素は望ましいが、何かに従属する「decorative」な性格はむしろ排除しなければならないものであった。しかし、たとえば陶器画を「decoration」か「ornament」かと問い質せないように、この二つの間に厳密な線引きを設けることは難しい。しかも「装飾」「かざり」「よそおい」「模様」「文様」など、微妙にニュアンスをずらす表現を数多く抱える日本語においては、欧米の理論とは異なる独自の概念規定が必要となるであろう。
(坂本恭子)
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