1960年代後半から70年代にかけて活発化した女性運動が刺激となって生まれた諸活動を指す。美術の領域ではとくに英米圏で盛んな活動が行なわれ、表現活動もさることながら、ミシェル・フーコーの思想、記号学やカルチュラル・スタディーズ、それと深い関係にあるマルクス主義美術史学、イデオロギー批判などさまざまな理論を取り込んで、強大な批評体系をつくりあげた。フェミニズム美術史の成果のひとつは、過去に見逃されてきた女性芸術家の発掘である。美術史や美術館という公の場に女性が不在であったという指摘、そして女性の参加を主張することは、フェミニズムの重要な仕事である。アーティストとしては70年代のJ・シカゴがこの種の活動を行っており、彼女は、歴史における女性の不在を視覚的に問題化してみせた。しかし、より重要なフェミニズムの成果は、女性の存在を看過してきた制度批判にある。研究者としては、リンダ・ノックリン、ロジカ・パーカー、グリゼルダ・ポロック、アン・サザーランド・ハリスらがこの問題に取り組んでいる。彼女たちの活動は、女性/男性という性を超えて、美術史学という制度それ自体を揺るがす可能性を秘めている。表現活動としてのフェミニズムは、ベッドやキッチンといった家庭的(女性的)、あるいは個人的なものを使うことで「女性」性を問題化することもあるが、一方で社会、文化の制度を問題化したアーティストとしてはS・シャーマン、B・クルーガーが挙げられる。わが国でフェミニズムが本格的に取り上げられるようになったのは90年代も後半のことである。わが国におけるフェミニズムの論争、ジェンダー批評については『女? 日本? 美?――新たなジェンダー批評に向けて』(慶応大学出版会、1999)に詳しい。
(浅沼敬子)
関連URL
●J・シカゴ http://www.indiana.edu/~scsweb/jchicago/
●S・シャーマン http://www.dnp.co.jp/museum/nmp/nmp_j/people/c-sherman.html
●B・クルーガー http://www.artcyclopedia.com/artists/kruger_barbara.html
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