「物神崇拝」。特定の事物に対する美的な感情移入の総称。「物神」を意味するfetishからの派生語で、18世紀後半に、フランスの啓蒙思想家C・D・ブロスの『諸物神の崇拝について』で初めて提唱された。人間の知覚と感覚的物質性を直接結び付けようとするその態度は、宗教的な形態をまとっているか否かの違いはあるものの、近代的な合理主義精神では十分に説明できない経験を補足しようとする点で、同時代に発生した「美学」とも共通している。このようにして登場したフェティシズムは、その後商業(commerce)、キリスト教(Chiristianity)、文明(civilization)の「3C」に代表される新たなパラダイムを回収して、その理論的基盤を整備していった。そして現在のフェティシズムをめぐる研究状況は、それを社会的に構築された幻想と見る立場と、それが現実に持ちうる力を直接研究の対象としようとする立場とに大別される。
(暮沢剛巳)
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