F・ソシュール以降の近代言語学は、「形式」を「内容」の対立概念として取り扱ってきたが、この図式がそのまま美術の作品解釈に当てはまるのかというと、どうやらそうでもないらしい。具体的なモデルの名であったり、あるいはその背後に潜む物語や理念であったりと、作品の「内容」が振幅を孕んでいるのと同様に、「形式」もまた「解釈」のあり方によって大きく揺らぐからだ。美術の「形式」を追究した思考として真っ先に思い浮かぶのは、C・グリンバーグらが推し進めた「フォーマリズム」だが、結局のところ美術の作品分析が必然的に「形式」を問題にしなければならないことを思えば、独自のカント解釈に基づく彼らの「形式」批評からはあまりにも多くのものが抜け落ちている。いずれにせよ、美術史はいまだ「形式」の明確な定義を確立していないし、仮に確立したとしても、一連のメディア・アートなど新しい様式の出現はその「形式」概念の更新を迫ることになるだろう。
(暮沢剛巳)
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