一般人の能力を超える個性的で創造的な能力のこと、またその能力をもった人物を示す。一般的に優れた芸術家に対してこの語が使用される。天才という概念が西洋の歴史上に現われたのはルネサンス期のイタリアであるが、これは古代ギリシアで説かれた創造と神秘的な霊感との関係に由来するものであった。その後16、17世紀に天才概念は全ヨーロッパに広まった。18世紀以降になるとロマン主義において天才と英雄概念との同一視がなされ、その学問的研究が、哲学・美学の領域でなされた(カント、ゲーテ、シェリング等)。今世紀に入ると天才と精神病質とに必然的な連関をみる、精神医学の分野からのアプローチが隆盛となり、今日の学問上の天才観もほぼその延長線上にあると言える。天才の存在は個人の能力だけではなく、その能力の突出を認める社会が存在して初めて成立する。その点で平均を旨とする現代社会(特に日本)において、「天才」は反語的な表現でしかありえないようだ。
(苅谷洋介)
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