自然や芸術作品の形態美を規定する多くの比例の中で最も理想的な比例法として認識され、その配分による量の比率を黄金比、または黄金率と呼ぶ。
ユークリッドにより提起された命題、「ひとつの線分を大小二つに分かち、小さい方の線分と全線分とでできた矩形を、大きい方の線分でできた正方形に等からめること」の解法によって得ることのできる矩形から、1.618:1という比率を導き出すことができるが、こうした性質がギリシア時代においては数学的な関心から探求され、彫像、神殿建築、都市計画への応用など、文化全般にその比例概念が重要な意味を担った。また、中世においては「神授比例法」とよばれ極度に神秘化された。ルネサンス以降、古典建築の正確な実測が行なわれるなど、比例法に対する学術的な研究が盛んとなり、特に20世紀に入り古典美術および建築に対する研究が著しく進み、より精密な研究がなされた。黄金という名が付されるのも近世に至ってからである。
現在では、ジェイ・ハンビッジによる「ダイナミック・シンメトリー」、エルンスト・モーゼルによる「クライス・ジオメトリー」の二つの学説を、美術作品、建築作品などへの具体的な検討を含めた、分割理論の有力な研究成果として、挙げることができる。互いに理論の展開は異なるがプロポーションについてはほとんど同様の結果に到っているといえる。
(森大志郎)
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