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『迷宮としての世界――マニエリスム美術』G・R・ホッケ
Die Welt Als Labyrinth: Manier und Manie in der Europäischen Kunst


1950年代から70年代にかけて、美術史学界で大流行したマニエリスム美術史研究の潮流を代表する名著。美術史においてマニエリスムが「発見」されたのはH・ヴェルフリンの『古典美術』(1898)が最初とされ、その後A・リーグルやM・ドヴォルシャックらの諸著作によって展開されていくのだが、果たしてマニエリスムがバロックに先行するルネサンス末期の一様式なのか、あるいは必ずしもバロックとの間に厳密な区分が成立しないのかという最も根本的な問題は、その後この分野の研究が後景に退いたこともあり忘れ去られていた。ホッケのこの書物は、先行研究の問題提起をさらに発展させたものだが、それが広範に受容されたのには、第二次大戦後の大量消費社会が招来した唯物主義に対する批判として、マニエリスムの反理性的・反近代的な性格がうってつけであったという側面もある。「不一致の一致」「一致の不一致」等々の用語を軸に、1520−1650年代の建築様式に最も典型的であったとされるマニエリスムの「迷宮的」な構造を緻密な類推で解きほぐし、現代芸術の歴史的正当性にまで言及するその手続きは、膨大な掲載図版も相まってさながら万華鏡の観を呈しており、『迷宮としての世界』という書名にいかにもふさわしい。無論ここに、マニエリスム文学研究の大家にして師でもあったE・R・クルティウスの影響をうかがうことは容易だが、その着想の源は、おそらく18世紀末の時点でマニエリスムを意識していた『判断力批判』(カント)にまで遡ることができるだろう。

(暮沢剛巳)

(種村季弘+矢川澄子訳、美術出版社、1987)

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