理論家としても知られる画家・宇佐美圭司の絵画論。冒頭に総論としての「絵画論」(雑誌初出時の表題は「芸術家の消滅」)を置き、以後P・ピカソ、H・マティス、P・クレー、J・ジョーンズらの作家論や山水画論、ドゥローイング論と続く構成となっている。これらの論考が論説誌上で発表された1970年代の後半は、コンセプチュアル・アートの流行の中に絵画が埋没していた時期であり、それを自らの個人的体験と重ね合わせた宇佐美は、冒頭の「絵画論」でそうした状況がもたらした事態を「失画症」と呼び、それに対して絵画を復興させる手だてとしての「プリヴェンション」を提唱している。宇佐美にとって絵画とは、チェンニーニやアルベルティ、ダ・ヴィンチらと同様に、それを論じることによって世界をも同時に論じうる特権的なものであり、その
崇高性への憧憬と現状への苛立ちが「描くための場を思考すること、そしてその肖像としての表現を成立させること、という鏡像の無限連鎖の中にしか、今表現を語りうえる場はないのではないか」という一文に込められている。一作家の私的な方法論を超えた意欲作で、出版当時は大いに反響を呼び、その後続編も刊行された。
(暮沢剛巳)
●宇佐見圭司『絵画論――描くことの復権』(筑摩書房、1980)
|