郵便制度の確立以来、展覧会の案内を郵便で送付する慣習は世界に広く浸透したが、60年代以降、この慣習をさらに推し進め、手紙や葉書を「作品」に見立てる表現様式が現われ始めた。「フルクサス」の作家R・ジョンソンが行なった、ポストカード型のコラージュを送りつける「コレスポンデンス・アート」はその代表的な例である。日本においても、50年代後半以降継続された「具体美術協会」の機関誌送付や河原温の「葉書」シリーズなど、多くの作家が「メール・アート」を手がけており、通信インフラの拡大が、そのまま美術の表現領域の拡大へと直結した好例と呼べよう。ということは、今後ネット上の電子メールを「作品」に見立てる試みも出現するのだろうか。「メール・アート」のひとつの側面としては、もちろん美術館という閉鎖的な空間の外へと美術を展開しようとする意図があるわけだが、過ぎた実験が社会的な摩擦を引き起こしてしまうことも決してありえない話ではない。日本でいえば、赤瀬川原平の「千円札裁判」がそれにあたる。
(暮沢剛巳)
関連URL
●フルクサス http://www.nutscape.com/fluxus/homepage/
●赤瀬川原平 http://www.dnp.co.jp/museum/nmp/nmp_j/people/g-akasegawa.html
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