プラハ出身の歴史家ギーディオンが、第2次大戦期のアメリカ滞在の研究成果をまとめた、日本語訳にして2段組み700頁に及ぶ大著。ドイツ美術史の空間論を建築へと延長した『時間・空間・建築』(太田實訳、丸善、1969)によって建築史に確たる地位を築いたギーディオンは、次作として一転して「ものいわぬものの歴史」の記述を試み、工場、農業、食品、家具、装飾、家事、入浴といった日常生活のさまざまな側面の歴史を、機械化という契機と結びつけて語ろうとした。人間の身体が機械に取って代わられていくことへの期待と危惧は、古くはド・ラ・メトリの『人間機械論』以来の立場であるが、「機械化を単純に肯定したり、否定したりすることはできない」とするギーディオンの立場はいささか曖昧で、そのためかこの浩瀚な大著を貫くパースペクティヴは見えにくい。とはいえ、機械文化論の名著として知られるR・バンハムの『第一機械時代の理論とデザイン』(石原達二ほか訳、鹿島出版会、1976)なども、本書なしには決して書かれえなかった。バンハムの言う「第二機械時代」をも過ぎた現在、『機械化の文化史』が提示した微視的な視線はその続編が書かれることを促しているようにも思われる。
(暮沢剛巳)
●ジークフリート・ギーディオン『機械化の文化史――ものいわぬものの歴史』
(邦訳=GK研究所+榮久庵祥二訳、鹿島出版会、1977)
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