1950年代後半より注目され始めた、大量生産された美術作品のこと。それ以前にも版画やブロンズ像等の量産品は存在したが、それらはあくまでオリジナルに対する複製品という関係にあった。しかし工業製品であるマルティプルは、最初から量産品として生産されオリジナルと複製という関係をもたない。そこでは作品の希少性から生まれる価値が排除され、したがって、安い価格で多くの人々が作品を購入できるはずである。マルティプル作品が生産された最大の理由はここにあった。その結果、作品のメディア(媒体)としての性格がクローズ・アップされ、これは後にコンセプチュアル・アートの作家たちに受け継がれた。しかし実際には、有名作家のマルティプルは限定生産のため希少価値を帯び、高価格で取引されることになる。
(苅谷洋介)
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