フランスの小説家・芸術論者であり文化担当国務大臣をもつとめたA・マルローが、1947年に出版した代表的芸術論『芸術の心理』の第1巻で提示した概念。「空想美術館」と訳すのが定訳となっているが、「図版による美術館」の意味も含まれる。特殊印刷技術や写真術の発達により、図版によってきわめて多くの美術作品を目にし、作品どうしを比較対照できるようになった状況を、「空想美術館」の出現と呼ぶ。それにより、広範囲の造形を知ることができるようになったばかりでなく、評価の基準が変化したとする。すなわち、従来は既存の確固とした美的基準に照らし合わせて「傑作」が決定され、そればかりか「作品」として重視されたが、「空想美術館」の実現以後は、たとえ美的にすぐれたものでなくとも、図像の変遷上に意味のある造形ならば、評価されるようになったという。近年のコンピュータによる画像処理能力の向上とインターネットの普及を背景に、デジタル・ミュージアムの構築が論じられる際、参照されることが多い概念である。
(鷲田めるろ)
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