「美しきよきデザインは機能に沿ったもので、コスト高をきたすものではない」の決まり文句で著名なデザイン論の古典。1953年にははやくも日本語訳が刊行され(学風書院刊)、今なお読み継がれている。著者のローウィは、「ラッキーストライク」や「ピース」といった煙草のパッケージ・デザインによって広く知られている人物であり、無駄な装飾を排除し、単純な色彩を用いた製品こそ美しく、低コストな製品を産み出すというその徹底した機能主義の立場はル・コルビュジエにも通じている。本書の中で描かれているのは主に1930年代のデザイン・ムーヴメントだが、一般に大恐慌とニューディール政策に結びつけられているこの時代を、ローウィは極めて楽天的に振り返っており、歴史年表によってはうかがい知れないこの時代の消費生活に触れることができる。これは、P・ゲデスやH・ドレフュスといった同時代のインダストリアル・デザイナーにもうかがうことのできる気質であろう。なお、同書の訳者藤山愛一郎は、初版刊行当時は日本商工会議所の役員職にあった財界人で、その後政界に転じて首相候補にも挙げられるなど、その異例の人選も大いに話題となった。
(暮沢剛巳)
●レイモンド・ローウィ『口紅から機関車まで――インダストリアル・デザイナーの個人的記録』
(邦訳=藤山愛一郎訳、鹿島出版会、1981)
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